(2017年11月4日にMixiに投稿した記事に加筆・訂正したものです)
完璧な技巧とお笑い芸人も真っ青のユーモアパフォーマンスで日本でもファンの多いムノツィル・ブラス。フランス・パリには、一年の一度の割合でやってくる。
今年は新プログラムの「サーカス」をひっさげて、11月はじめに、この春オープンしたばかりのラ・セーヌ・ミュジカル La Seine Musicale で行われた。
このホールは、かつては島全体がルノー自動車の製造工場だったというパリ西部(16区の向こう側)のスガン島に、最新技術を駆使して建てられたホールで、1500席ほどのクラシック専用ホールと、イベントなどにも使うことができる、最大6000席まで席数が調整可能の大ホールを擁し、その他リハーサル室や録音専用ホールなども備えている。
この日のムノツィル・ブラスのコンサートは、クラシック専用ホール。だが満杯には程遠く、空席が目立つ。(ちなみに、このホールは広報他、運営面で問題があることが徐々に明らかになっており、すでにある有名ピアニストのリサイタルで集客ができずにキャンセルになったという前例あり。)しかし、音響抜群のホールでの響きは、これまでのパリ公演会場だった19世紀建築のミュージックホールでの彼らの演奏が全く別物のように聞こえる。
新しいプログラムは、タイトルからもわかるように、サーカスをモチーフとしている。衣装もサーカス風。と言っても、もちろんユニフォームなどではなく、クラウン(道化師)風、燕尾服、ダボダボの上着、ロックスター風等々、おのおのが好き勝手な服を着ている。トランペッターのローマン(個人的には、密かに「ブラス界のヨナス・カウフマン」と呼んでいる。)は、今回は燕尾服姿で手品師の役に徹した。一部手際が悪い部分もあって、ネタが見えてたりしたけど、そんなことはご愛嬌。トランペットと手品の両刀の使いこなし方は見事。やはりトランペットのロベルト・ローター(だったと思う。間違ってたらごめんなさい)は、あるナンバーで、音色が異なる二つの楽器を交互に吹いていたが、最後にはなんと、それを同時に演奏して、トランペットで和音なんかを出している。感心を通り越して、唖然。どんな肺活量してるんだろう!
パリ公演だったからかは知らないが、途中、エディット・ピアフのシャンソンを歌い出したりもした。そう、彼らは歌を歌ったのです。そしてフランス語で一言二言お世辞を言い、観客を喜ばせていたが、ごますり魂胆が見え見えなんですよね、ちょっと… まあ悪い気はしませんが… って、これももちろん、練りこまれたアイデアの一つ。彼らのショーは、一見軽そうに見えるけれど、どこで笑いをとるか、どこで技巧と絢爛たる音色を聞かせるか、つまり締める場面と緩める場面が精密に組み立てられていてる。だから飽きない。
これまでのショーで、ヒジョーに怪しいおじさんというキャラを地道に積み上げ(?)、今やその達人の域に達したトロンボーンのレオンハルト・パウルは、そのキャラをさらに強調する衣装で、役柄にさらに磨きがかかっている。アンコールには、もちろん「あの」芸を披露。他のメンバーに支えられて宙に浮いた状態で両足で二つのトロンボーンのピストンを操作するという、これなくしてはムノツィル・ブラスの公演は終わらないという「あの」芸だ。
最後に、毎回の事ながら、素晴らしいアレンジに惜しみない喝采を送ろう。
Paris, La Seine Musicale
2017年11月3日