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プレイアード六重奏団によるベートーヴェンとシェーンベルグ

par Victoria Okada

プレイアード六重奏団をご存知だろうか。時代を問わず、その曲が作られた当時に使われていた楽器(またはそのコピー)で演奏して日本でも人気の高いオーケストラ「レ・シエクル」のメンバーの女性6人が2011年に結成した弦楽アンサンブルだ。これまでにない新しい音と新しいコンサートのかたちを求めて、他の音楽家との共演だけでなく、さまざまな分野のアーティストとのプロジェクトにも積極的に参加している。初録音となるこのCDに、彼女たちはベートーヴェンとシェーンベルグを選んだ。

ベートーヴェンは六重奏曲op. 81bかと思いきや、《田園交響曲》。ミカエル・ゴットハルト・フィッシャー(1773〜1829)なる人物が1810年に編曲した知る人ぞ知る版である。私の知る限りでは2003年にケルン六重奏団がこれを録音しているが、それ以降再録音された記録はない。(が、もしケルン六重奏団以外の団体が演奏していることをご存知の方がいらっしゃいましたらお知らせください。)

フィッシャーはJ.S.バッハの孫弟子で、ドイツのエアフルトに生まれ、同地の教会のオルガニストを勤めていた。彼の手になる編曲は非常にうまくできている。ちなみにベートーヴェンの交響曲の編曲で有名なのはリストによるピアノ二手または四手用版だが、楽譜にはリストという強烈な個性が強く表れていて、本来ない音を自由に書き込んでいる場所も少なからずある。ただそういうことは音楽史上常にあったこと。現在重要視されている楽譜絶対論(当然どの楽譜に準拠するかという議論も盛んになる)は非常に最近の傾向で、当時は著作権のなかった時代でもあり、音符が違うと目くじらを立てるということもなかった。

フィッシャーに話を戻そう。彼の編曲のどこがよくできているかというと、オーケストラの音符が、たった6つの弦楽器(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ各2)に、かなり忠実にかつ実に効率よく配分されていて、通常、オケ全体に埋もれてよほど注意しないと聴こえないような音が、重みを持って迫ってくる。少々大げさに言えばこの曲の再発見とでも言えようか。聴き慣れた楽譜が全く新鮮に耳に響くのだ。もちろん、レ・シエクルで鍛えられた響きを存分に提供してくれる6人の力量あるアーティストの演奏があってこそだ。弦楽器という同質的な音であるにもかかわらず、音色や厚みがさまざまに変化し、まるでモーツァルト系の小編成オケのようにも聞こえる。例えば第2楽章の有名なカッコウの鳴き声を模した箇所。または第3楽章の中間部の前後。クラリネットやオーボエが確かに聴こえる。ブラインドテストをすれば弦楽器だけだと答える人は何人いるだろうか。そしてその音色は、18世紀から受け継いだ古典楽器(それ自体バロック楽器から受け継いだものだ)と19世紀後半の(幅広いヴィブラート奏法と切っても切り離せない)近代楽器の間に位置する、19世紀初めの楽器独特の音色だ。ライナーノートにはチューニングが幾らかなどの情報は掲載されていないが、6つの楽器が生み出すハーモニーが心地よいのは、音色に加えてチューニングが大いに関係していることは間違いない。

個人的には、こういう楽譜や演奏には大変に興味があるし、ベートヴェンが音楽的にどんな時代背景に生きていたかを知る上で非常に面白いと思う。

2曲目の《浄められた夜》は、ベートーヴェンに比べると魅力が少ないように感じる。ワグナーやマーラーなどの語法にまだどっぷりと浸かっていたシェーベルグ初期の、しなやかな幅広さやドラマ性が少々欠けているように思える。何度か聴いたが、楽器はベートーヴェンと同じではないかと思われる(ライナーに楽器の記述がないのが残念だ)。《田園》の作曲が1808年、《浄められた夜》が1899年なので、両者にはほぼ1世紀の開きがあり、音に対する好みがかなり変わっていると思うのだが、根本的な音色が異ならないように聴こえる。実際のところはどうなのだろう。ある意味では、こじんまりとした音色の同一性が、ロマン的なほとばしりや広がりを抑えているように感じられるのだ。

とはいえ、演奏そのものはインスピレーションに富んでいて完成度が高く、大いに楽しめる。

手元に置いておきたい一枚。

Les Siècle – Les Pléiades (sextuor à cordes) : Beethoven, Schœnberg. NoMad Music, NMM070, 71’14

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