子供の頃から天才的なクラリネット奏者として活躍してきたラファエル・セヴェール Raphaël Sévère。12歳で東京のコンクールで優勝し、2013年にはニューヨークの国際ヤング・コンサーツ・アーティスツで優勝すると同時に、10の特別賞のうち8つを受賞。以来、フリーのクラリネット奏者として精力的な活動を展開しているが、最近は作曲にも力を入れており、作品を出版する他、自作自演のコンサートも開いている。
管楽器が盛んでレベルも相対的に飛び抜けて高いフランスで、オーケストラに所属することなくソリストとしての活動を続けるのは大変なことだと想像できるが、彼はそれをキャリアの中心に据えて常に新しい地平を探し求めている。
そんな彼の最新のCDはモーツァルト。最近死去したラルス・フォークト Lars Vogt が、音楽監督だったパリ室内管弦楽団 Orchestre de Chambre de Parisを指揮してクラリネット協奏曲で共演している他、モディリアニ弦楽四重奏団 Quatuor Modigliani もクラリネット五重奏曲で参加している。
フォークトとの録音は、データを見ると2021年10月はじめとなっている。彼が最後にこのオーケストラを指揮したのが今年7月、亡くなったのが9月はじめなので、彼の最後期の芸術記録音源としても貴重なものとなっている。
さて、ここでのセヴェールの演奏は、軽快さとエレガンスという二語に凝縮されているといえよう。モダンクラリネットの豊かな響きを故意に披露せず、何よりも音楽の流れを重視して、どちらかというとこじんまりと仕上げている。そのこじんまりした演奏は、パリ室内管弦楽団がいわゆる「モーツァルト・オケ」であることも合間って、非常にバランスのとれた優雅なものとなっている。そのバランス感はモディリアニSQとの五重奏曲でさらに追求されているように思われる。
こじんまりしていると言ったが、それはもちろん、表現が貧弱なのではなく、様式感に優れているという意味だ。セヴェールの表現の幅はあくまで広い。もっとも素晴らしいと思うのは歌うようなメロディ感だ。ふとメロディが頭に浮かんできてそれを自分のために口ずさむかのような自然さに、非常に好感が持てる。クラリネット協奏曲の、どこからともなく始まりどこへ去るともなく消えていくようなあまりにも美しいメロディを、セヴェールの演奏で聴けることは、最上の音楽の喜びと言っても過言ではない。かと思うと、茶目っ気にあふれたロンドのテーマ(協奏曲)や、蝶々があちこちの花へ飛び移るような変奏曲(五重奏曲)での軽快さには、気持ちもほぐれてくる。
この録音は、モーツァルトの室内楽の真骨頂の一つとして残っていくことだろう。
1CD Mirare MIR626 60’36
2022年9月23日発売