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オペラ専門サイト フォーラム・オペラ の年間「トロフィー」その2

par Victoria Okada

前回に引き続き、オペラ専門サイト「フォーラム・オペラ」が発表した2019年「トロフィー」リストと、筆者によるコメントを紹介する。

オペラ録音(全曲録音)

1位 ファウスト(グノー、1859年初版)、パラゼット・ブリュ・ザーネ Faust, Palazzetto Bru Zane (29,7%)

2位 ポッペアの戴冠 (モンテヴェルディ)、アルモニア・ムンディ Le Couronnement de Poppée, Harmonia Mundi (23,8%)

3位 魔笛(モーツァルト)ドイチュ・グラモフォン La Flûte enchantée, Deutsche Grammophon (22,6%)

4位 セミラミド(ヘンデル)、オペラ・ララ Semiramide, Opera Rara (15,3%)

5位 ボリス・ゴドノフ(ムソルグスキー)、ビス Boris Godounov, Bis (8,7%)

このランキングで特筆されるのは何と言っても1位の初版ファウスト。シャンゼリゼ劇場でコンサート形式で上演された際に同時に録音された(ライブではない)。初版楽譜に基づく演奏は、広く知られている版では削除されたアリアや、現在スタンダードになっている後から追加・訂正されたパッセージなどがそ以前の状態で保たれており、「これがファウスト?」と言いたいほど異なる場所もある。男性歌手カテゴリーで1位をえたベルナイムがファウスト役で登場。パラゼット・ブリュ・ザーネ Palazzetto Bru Zane はヴェネチアに本拠を置くフランス・ロマン派音楽センターで、2009年にオフィシャルに設立。研究、プロダクション、出版の3分野を軸として、たった10年で知られざるフランス音楽をレパートリーに広く定着させ、音楽学者たちと連携して最新の研究成果を演奏に反映させるコンサートや上演を次々と行なっている。

リサイタルアルバム

1位 『オッフェンバック・コロラチュア』ジョディ・ドヴォス Offenbach colorature, Jodie Devos (27,6%)

2位 『マドモワゼル』ジュリー・フックス Mademoiselle, Julie Fuchs (27,4%)

3位 『オー・リーブ!』シリル・デュボワ O Lieb !, Cyrille Dubois (19%)

4位 『もし愛したなら』サンドリーヌ・ピオー Si j’ai aimé, Sandrine Piau (15%)

5位 『ため息の庭』マグダレーナ・コジェナ Il Giardino dei sospiri, Magdalena Kožená (11%)

1位のベルギーのコロラトゥーラ・ソプラノ、ジョディ・ドヴォス Jodie Devos 2014年にエリザベート王妃国際音楽コンクールで2位を受賞後、5年ほどの間にコロラトゥーラのスターにのし上がった実力派。フランスものを得意とする若い世代の代表的存在で、その見事な歌声は何度聞いても「納得」以外の感想しか出てこないから驚きだ。2位のジュリー・フックス Julie Fuchs はフランスのソプラノ。やはりフランスものでファンが多いが、ソーシャルネットワークでも非常に活動的で、インスタグラムで Opera is open というプロジェクトを立ち上げてオペラの普及を行なっている。3位のシリル・デュボワ Cyrille Duboisも、若い世代を担うフランスのテノールとして欧州各地で引っ張りだこだ。受賞したCDは、リストのフランス語、ドイツ語、イタリア語の歌曲を集めたもの。発音とフレーズのイントネーションの明瞭さで高く評価される彼が、トリスタン・ラエス Tristan Raèsという良きパートナー(注目のフランス人ピアニスト。フランスには歌曲伴奏やオペラの伴奏歌手として優れたピアニストが多いが、ソリストに比べて名前を知られる機会が少ないので、ぜひ彼らに注目してほしい)を得て、その豊かな音楽性と自在な表現性を伸びやかな声にのせて発揮している。4位と5位のピオーとコジェナは今では中堅の域を大きく超えて活躍する。聴衆だけではなく指揮者やミュージシャンからも人気があるのが特徴。

DVD

1位 血まみれの修道女(グノー)、ナクソス La Nonne sanglante, Naxos (33,4%)

2位 ロデリンダ(ヘンデル)エラート Rodelinda, Erato (24,9%)

3位 オルフェオ(ロッシ)アルモニア・ムンディ Orfeo, Harmonia Mundi (18,6%)

4位 ヴァネッサ(バーバー)オプス・アルテ Vanessa, Opus Arte (11,8%)

5位 皆殺しの天使(エクスターミネーティング・エンジェル)(アデス)The Exterminating angel, Erato (11,2%)

現代もの、復活上演ものに限らず、ほとんどが新しいレパートリーで閉められているのが面白い。1位の『血まみれの修道女』は20186月にオペラ・コミック劇場で上演されたものを収録。19世紀に多く上演され人気を博していた「修道女もの」「幽霊もの」のオペラで、グノーの知られざる名作だ。アメリカのテノール、マイケル・スパイアーズの恐るべき高音が聞きどころ。歌手部門で受賞したジョディ・ドヴォス Jodie Devos、ヴァニナ・サントニ Vannina Santoni、アンゲラン・ド・イス Enguerrand de Hys も出演している。2位のロデリンダは歌手陣もさることながら、舞台芸術と衣装がゴージャスかつ緻密で素晴らしい。指揮部門で2位のアイム Emmanuelle Haïm ル・コンセール・ダストレ Le Concert d’Astrée を振っている。ロッシの『オルフェオ』はマザラン枢機卿の尽力で1647年に初演。歴史上フランスで上演された2番目のオペラ。4位の『ヴァネッサ』は、昨夏、グラインドボーン音楽祭での上演を収録したもの。1958年にメトロポリタン・オペラで初演されたが、作曲家のサミュエル・バーバーはこの作品でピュリツァー賞(音楽部門)を受賞した。5位の『皆殺しの天使』は、1962年の同名のメキシコ映画を下敷きに、気鋭のイギリスの作曲家トーマス・アデス Thomas Adès が作曲した3番目のオペラで、2016年にザルツブルグ音楽祭で初演された。このDVD20171月のメトロポリタン・オペラでの上演を収録している。


La nonne sanglante, Opéra Comique

書籍

1位 『フランス・オペラ、様式の問題としての』ル=ルー、レナルディ L’Opéra français, une question de style, Le Roux / Raynaldy

2位 『オッフェンバック氏からの手紙』ヨン Monsieur Offenbach nous écrit, Yon (24,4%)

3位 『ピエール・ブーレーズ』メルラン Pierre Boulez, Merlin (19,5%)

4位 『コンサート会場としての教会』グリバンスキ L’Eglise comme lieu de concert, Gribenski (15,9%)

5位 『レオ・ドリーブ』ジラール Léo Delibes, Girard (14,8%)

フランス・オペラを長年歌い続けてきたバリトン歌手フランソワ・ル=ルー François Le Roux の著作が1位に入った。彼はフランス語の歌詞と歌唱法の関係のスペシャリストで、フランス語詩を発音する際の韻律を歌唱にどのように生かすかという問題を追求し、マスタークラスなどで教えてきたが、現在ではエコール・ノルマルで専門のクラスを持っている。彼が実際に何度も舞台で歌った25のオペラ作品を例に取り上げて実際の演奏に即して解説する。

2位は、フランス19世紀の興業文化史の権威で現在最も信頼できるオッフェンバックの伝記を表したジャン=クロード・ヨン Jean-Claude Yon が、オッフェンバックの有名な作品を書簡を通して紹介するコンパクトな本。

3位と5位には伝記が入った。3位のブーレーズの伝記は『ル・フィガロ』紙のジャーナリストで国営ラジオのフランス・ミュージック局でオーケストラを語る番組を担当しているクリスティアン・メルラン Christien Merlin の労作。5位のポーリーヌ・ジラール Pauline Girard によるドリーブの伝記も、400ページにわたる、これまでになく詳細なもの。4位は、音楽学者ファニー・グリバンスキ Fanny Gribenski による研究書で、フランス革命を経た19世紀に教会がどのようにしてコンサートの会場になっていったかを音楽史、演奏史、社会史などの観点から探る。

 

 

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