Accueil レヴュー舞台コンサート 期待の新星ガブリエル・デュルリア、フォーレを弾く

期待の新星ガブリエル・デュルリア、フォーレを弾く

フォーレ没後100年記念コンサート in Paris

par Victoria Okada

2001年生まれのガブリエル・デュルリア(Gabriel Durliatは、現在もっとも注目される若手ピアニストの一人である。彼は11月17日、「ラ・スカラ・パリ(La Scala Paris」で、11月4日に没後100年を迎えたガブリエル・フォーレ(Gabriel Fauré)にオマージュを捧げるコンサートを開催した。このコンサートは、若手ピアニストを広く紹介することを目的とするアソシエーション「レ・ピアニシム(Les Pianissimes」との共同開催によって実現した。
プログラムは、歌曲『蝶と花』作品1からピアノトリオニ短調作品120まで、ほぼ時系列に沿ってフォーレの生涯を音楽でたどる構成となっている。また、ゲストとしてメゾソプラノのヴィクトワール・ビュネル(Victoire Bunel)、ヴァイオリンのトマ・ブリアン(Thomas Briant)、チェロのジョルダン・コスタール(Jordan Costard)が共演した。

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充実した音楽教育を受けた早熟な音楽家

ガブリエル・デュルリアは16歳でパリ国立高等音楽院に入学し、オルタンス・カルティエ=ブレッソン(Hortense Cartier-Bresson)ティエリー・エスケッシュ(Thierry Escaich)ジャン=フレデリック・ヌーブルジェ(Jean-Frédéric Neuburger)ギヨーム・コネソン(Guillaume Conesson)に師事した。ピアノ、和声、伴奏法をはじめとする複数の科目で、審査員全員一致のプルミエ・プリを獲得した。2022年からは同音楽院の演奏家ディプロマコースで学びながら、フィリップ・ジャルスキー・アカデミーでセドリック・ティベルギアン(Cedric Tiberghien)とともに研鑽を積んでいる。
指揮者としては、同年コペンハーゲンのマルコ国際指揮アカデミーの受講生に選ばれ、ファビオ・ルイジ(Fabio Luisi)ヘルベルト・ブロムシュテット(Herbert Blomstedt)の下で学んだ。2022年にはフランスのピアノ・キャンパス国際コンクールで優勝、2023年にはマイニンゲンのハンス・フォン・ビューローコンクール「ピアノからの指揮」部門で第2位を獲得するなど、多重な才能を発揮している。
作曲や編曲にも精力的に取り組んでおり、このコンサートでは『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande)』の有名な「シシリエンヌ(Sicilienne)」や『レクイエム』の「イン・パラディスム(In Paradisum)」を編曲して演奏している。

 

フォーレの作品を時系列にそって配したプログラム

ホールに入ると、舞台奥の壁に大きく投影された比較的若い時代のフォーレの肖像写真が目に留まる。コンサート前、主催者の簡単な挨拶に続いてマイクを取ったデュルリアは、「企画の段階で、肖像写真を見せるのはいいアイデアだと思ったけれど、実際に出してみるとちょっとプレッシャーを感じますね!」「時系列を追うプログラムなので、音楽とともに皆さんにも歳をとっていただきます」と場を和ませた。この世代に多く見られるように、彼は客席とのコミュニケーション術を自然に身につけているようだ。デュルリアの言葉通り、プログラムが進むにつれて写真は2度変わり、合計で3枚の写真がフォーレの3つの作曲時期を象徴するものとなっていた。

 

ラ・スカラ・パリでのガブリエル・デュルリアのコンサート © Olivier Bouley

 

3人の共演者

コンサートは、ヴィクトワール・ビュネルが歌う『蝶と花』作品1で幕を開けた。ビュネルは肉感的で深みのある声質が特徴のメゾソプラノであり、どの言語でも明瞭な発音で歌詞をはっきりと聴き取ることができる点が優れている。バロックから現代まで幅広いレパートリーを持ち、初演作品にも精力的に取り組んでいる歌手だ。この日は6曲の歌曲を、時には軽やかに(『蝶と花』作品1)、時にはしっとりと(作品23より『私たちの愛(Notre amour)』『ゆりかご(Les Berceaux)』)、また時には重みを持たせて(『5つのヴェネツィアの歌(Cinq mélodies de Venise)』作品58より『クリメーヌへ(À Clymène)』、『エヴの歌(Chansons d’Ève)』作品95より『おお死よ、星屑よ(Ô Mort, poussière d’étoiles)』)、さらに時には束縛から解き放たれたように(『現像の水平線 (L’Horizon chimérique)』作品118より『船たちよ、僕らは君たちを愛した (Vaisseaux, nous vous aurons aimés)』)と、さまざまな表情を巧みに変えて歌い上げた。

室内楽では、トマ・ブリアンとともにヴァイオリンソナタ第1番から第1楽章、トリオ作品120から第2楽章を演奏した。ブリアンはデュルリアと同じく2001年生まれで、5歳でヴァイオリンを始め、17歳でパリ国立高等音楽院に入学している。2021年にはフィリップ・ジャルスキー・アカデミーに、2022年にはスイスの小澤アカデミーに選ばれた経歴を持つ。ザラトゥストラ・トリオ(Trio Zarathoustra)の一員として、室内楽にも積極的に取り組んでいる。デュルリアとはお互いを深く理解しており、息の合った演奏が堪能できた。

(アコーデオンのジュリアン・ボーモンと、ボーモン作曲「復活」ソナタより第3楽章)

トリオでチェロを担当したジョルダン・コスタールとは、『エレジー』作品24と『ロマンス』作品69も演奏した。コスタールは2019年度のフィリップ・ジャルスキー・アカデミー出身である。パリ国立高等音楽院では、数々の俊英を育てた名教授フィリップ・ミュラー (Philippe Muller) に師事し、ミュラーの退任後は後任のラファエル・ピドゥー (Raphaël Pidoux) の下で研鑽を積んでいる。懐の深い表現が彼の特徴であり、『エレジー』と『ロマンス』という小品にもドラマ性を吹き込んだ演奏が印象的だった。

 

衒いのない自然なデュルリアの演奏

デュルリアの演奏は、ソロ、歌曲、室内楽いずれにおいても、衒いのない自然さが際立ち、非常に好感が持てる。質感のある表現も見事だが、特に空気中を漂うような軽やかで柔らかな表現が秀逸だ。プログラムの性格上、彼のソロ演奏はバルカロール第1番、『ペレアスとメリザンド』より「シシリエンヌ」、そして『レクイエム』より「イン・パラディスム」の3曲に限られていた。上述の通り、バルカロール以外の2曲はデュルリア自身による編曲である。
彼の演奏からは、曲の性格を的確に捉え、過剰に解釈することなく真摯に曲と向き合う姿勢が伝わってくる。それはおそらく作曲を本格的に学んでいることで、創作者としての作曲家を深く尊重する姿勢が自然に培われているのだろう。将来有望な若手ピアニストとしてすでに多くの舞台を経験しており、さらに数々の指揮者のアシスタントを務めるなど、今後の多方面での活躍が大いに期待される。

Gabriel Durliat © Dominik Falenski

ラ・スカラ・パリ

会場の「ラ・スカラ・パリ」は、パリ中心部の大小の劇場が集まる地域に数年前にオープンしたホールだ。1873年にミラノのスカラ座にヒントを得たイタリア風の馬蹄型劇場として「コンセール・ド・ラ・スカラ」の名で開場し、ベル・エポック期には人気のカフェ・コンセールとして大いに賑わった。映画の興隆とともに1936年にはアール・デコ調の映画館へと姿を変え、1977年にはパリで最初のシネマコンプレックスとなったが、1999年に閉鎖。その後、放置されて朽ちるままになっていた建物を現在のオーナーが買い取り、全面改修を施して2018年に現在の「ラ・スカラ・パリ」として再生した。
現在、このホールでは演劇、ユーモア、ワンマンショー、サーカス、朗読会、そしてコンサートと、劇場で上演されるあらゆるジャンルを網羅するプログラムを提供し、多様なファン層を獲得している。音楽プログラムもクラシックからポップ、エレクトロ系まで幅広く対応しており、地下のリハーサル室を改装して2020年にオープンした小ホール「ラ・ピッコラ・スカラ」では、毎月13日にバロック音楽のコンサートが開催されている。

メインホールは、70個以上のスピーカーをスペース全体に配置することによって音に包まれたような効果を創造することができ、特に現代音楽などには理想的な環境であるが、クラシック音楽にはかなり乾いた音響となっている。そのためか、この日のコンサートではピアノの音が増幅されていた。低音部分の増幅率が大きく時に耳障りと感じられるほどで、音のバランスがかなり崩れていることが残念であった。

La Scala Paris メインホール © Bernard Martinez


プログラム

Gabriel FAURE (1845-1924)
Le papillon et la fleur, mélodie op. 1
1ère Barcarolle op. 26
1ère Sonate pour violon et piano (1er mvt)
Berceuse pour violon et piano op. 16
Notre amour, mélodie op. 23
Les berceaux, mélodie op. 23
Élégie pour violoncelle et piano op. 24
Romance pour violoncelle et piano op. 69
À Clymène, mélodie op. 58
Sicilienne, extrait de Pelléas et Mélisande op. 80 (transcription : G. Durliat)
Ô mort, poussière d’étoiles (mélodie extraite de la Chanson d’Eve op. 95)
In Paradisum, extrait du Requiem op. 48 (transcription : G. Durliat)
13e Nocturne op. 119
Trio pour piano, violon, violoncelle op. 120 (2e mvt)
Vaisseaux, nous vous aurons aimés (mélodie extraite de l’Horizon Chimérique op. 118)

Gabriel Durliat, piano
Victoire Bunel, mezzo soprano
Thomas Briant, violon
Jordan Costard, violoncelle

2024年11月17日

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