フランスでは新コロナウィルスで聴衆を交えてのコンサートが禁止されて久しいが、レザールフロリサン Les Arts Florissants も他のアンサンブルと同様、無観客コンサートの収録を何度か行っている。2月28日、屋根と外壁の修復工事の足場が取り払われたヴェルサイユの王室礼拝堂(ニュース記事はこちら)で、シャルパンティエの作品によるプログラムを収録した(フランス語の記事はこちら)。
これまでの無観客コンサートの収録にはジャーナリストと関係者のみが招待されていたが、この日初めて、メセナや「友の会」の会員なども集い、プライベートコンサートのような雰囲気で行われた。
プログラムは聖母へのオマージュをテーマに、フランス・バロック音楽の巨匠としてジャン=バティスト・リュリ Jean-Baptiste Lullyと双璧をなすマルカントワーヌ(マルク=アントワーヌ)・シャルパンティエ Marc-Antoine Charpentier の宗教曲をたっぷり聴かせるもの。
シャルパンティエの宗教曲はその演劇性と絢爛さが特徴。個人の内面の祈りを表現するというよりは、イエスやマリアの優越性を劇的に表現することに重点が置かれている。それはまさに「バロック」という時代の特徴でもある。
ウィリアム・クリスティ William Christie がポジティフ・オルガンから弾き振り。ソロパートは合唱団の団員が歌っているが、直前になって健康上の都合から出演できなくなった歌手の代役として、オペラなどでも精力的に活躍しているマルク・モイヨン Marc Mauillon が登場。彼の音域はテノールだが、この日はバスのパートを歌った。通奏低音のヴィオラ・ダ・ガンバには堅実派の若手、リュシル・ブーランジェ Lucile Boulanger の顔も見られる。
収録は午後3時から。この日は雲ひとつない晴天で、礼拝堂には燦々と輝く太陽の光が入り込み、演出効果も抜群。普段のコンサートは夜のため、礼拝堂がこんなに明るい場所だとは想像できにくい。
そんなコンサートの全貌が、4月9日から QWEST TV (有料)で楽しめる。このインターネットテレビは、ジャズミュージシャンで音楽プロデューサーのクインシー・ジョーンズ Quincy Jones が創設した局で、これまでジャズ、ポップ、ポピュラーなどの音楽を配信していたが、このコンサートでクラシックにも門を開いた。
ビデオの監督はフランスのジョン・ブランチ John Blanch。2年ほど前に、ある音楽コンクールでの配信に参加し、それ以降急激に事業を拡大している、まだ若手のプロデューサーだ。彼の監督によるコンサートやオペラのビデオはすでに数多く、日本の愛好家もどこかで目にしているはずだ。
2021年2月28日、ヴェルサイユ、王室礼拝堂 Chapelle Royale de Versailles
プログラム
Marc Antoine Charpentier :
Te Deum H. 147,
Pange Lingua H. 61,
Litanies à la Vierge H. 83,
Pestsis Mediolanensis H. 398 & H. 398a
Nuptiae sacrae H. 412.