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指揮者なしの《春の祭典》

par Victoria Okada

201712Mixiに投稿した記事に加筆・訂正したものです)

《春の祭典》といえば、次々と変わる変拍子と楽器のコンビネーションで、指揮者がいてもアンサンブルがうまくいかない難曲。それを指揮者なしで全く見事に演奏するオーケストラがある。フランスのヴァイオリニスト、ダヴィッド・グリマル David Grimal が2004年に創設した「レ・ディソナンス Les Dissonances」だ。

指揮者なしの合奏団や室内オケは今では珍しくないが、「レ・ディソナンス」はシンフォニーオーケストラ。フランスを中心にヨーロッパ中から若いソリスト、室内楽奏者、様々なオケに属する音楽家を集め、演奏する曲によって規模が変わる。核となるメンバーはいるが、それ以外は自由に入れ替えが可能だ。指揮者を取り払うことで、それぞれの音楽家の経験を平等に分かち合いながら「音楽集団」として機能していこうという意図で出発し、稀な成功例として現在に至っている。ちなみにdissonanceとは「不協和音」の意味。オケの名前としては普通は避けるであろうこの言葉を、複数で Les Dissonances と名付けたのは、どういうことなのだろう? 私には、一人一人の個性を大切にしてその凌ぎ合いで音楽を創っていこうというような意気込みが感じられるが、いつかご本人に命名の由来を聞いてみたい。

さて、今日12月24日に、フランスのクラシック・ジャズ専門のテレビ局 Mezzo で放送していた演奏会は、昨10月26日にパリのフィルハーモニーホールで収録されたもの。プログラムは「ダンス」と題して、ベートーヴェンの交響曲第7番と、ストラヴィンスキーの《春の祭典》。この日の演奏会にはあいにく行けなかったが、翌日から演奏を絶賛する批評がいくつも出たのを覚えている。正直言ってこの時はあまり興味をそそられなかった。ディジョンを本拠地(レジダンス)としているこのオケのことは知っているし、グリマル氏の活動についても一通りのことは知っている。プレス用の CD もいくつかいただいて聞いている。グリマル氏は「レ・ディソナンス弦楽四重奏団」もつくっていてそこでも良い演奏をしている。けれど、今日の放送を見るまでは、100人もの団員がここまで情熱的な演奏をするとは想像していなかった。

『春の祭典』(抜粋)ビデオ

画面には、平均年齢が30歳前後と思われる若い音楽家たちが、心から楽しんで音楽に没頭している姿が映し出されていた。ベートーヴェンでは、比較的早いテンポのスケルツォ楽章、会心の終楽章も含め、まさに一糸乱れぬ演奏。ミュージシャン同士が微笑みながら目で合図を取り合っているのがよくわかる。その微笑みは、良い仲間がすでにわかっている心うちを改めて確認するような、安心感に溢れたものだ。《春の祭典》では、皆、自分の楽器に集中しているため演奏中は顔には出さないものの、それぞれのパッセージごとにお互いのことを思いやっているのが伝わってくる。弦が一斉にボウをさばく様子が、バレエ群舞を見ているようで美しい。指揮者に頼ることができないので、自分の耳だけを頼りにするしかなく、それが見事な緊張感を生み出している。しかし緊張によって萎縮するのではなく、その緊張感から常に新しいエネルギーが生まれている。ゆえに当然、音楽にも稀に見る生気がみなぎっている。そして曲が終わると、一人一人の顔になんとも言えない爽やかな笑みが花開き、お互いにその笑顔を投げ合っている。演奏中に表現できなかった賞賛の言葉を笑顔にかえて、讃えあっているのだ。このオーケストラが、本当にみんな一緒になって曲に取り組んできたことを雄弁に物語るシーンだった。サラリーをもらってある意味マンネリ化して演奏をする、一部の既存のオケにはない、素晴らしい創造エネルギーがみなぎっている。

テレビなどの映像でのコンサートの放映では、大抵の場合、コンサートホールに特有の舞台と客席のコンタクトがよく伝わらず、乾燥した印象を持つことが多いが、今夜はまるでその場にいるように、熱気が感じられた。思いもかけないクリスマスプレゼントをもらったようで、とても嬉しい気持ちになった。

オフィシャルサイト(仏語、英語)はこちら

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Le Sacre du Printemps par Les Dissonances | Vivace Cantabile 2017-12-25 - 00:00

[…] Ce soir (le 24 décembre 2017), la chaîne Mezzo a diffusé le concert donné par Les Dissonances à la Philharmonie de Paris le 26 octobre dernier sous le thème de « La Danse » (la 7e Symphonie de Beethoven et Le Sacre du Printemps de Stravinsky), l’émission que j’ai regardée avec beaucoup d’intérêt. Quelques impressions livrées en japonais se trouve ici. […]

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