2025年3月17日、フィラルモニ・ド・パリ(パリ・フィルハーモニー)で、ジョシュア・ワイラースタイン指揮のリール国立管弦楽団(ONL)がシェーンベルクの《ワルシャワの生き残り》とショスタコーヴィチの交響曲第13番《バビ・ヤール》を演奏した。ホロコーストと独裁政権によるユダヤ人迫害の恐怖をテーマとするこれらの作品で、ONLはその演奏レベルを飛躍的に向上させ、世界トップクラスのオーケストラにも匹敵する見事な演奏を披露した。
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この夜のコンサートは、リール国立管弦楽団 (Orchestre national de Lille, ONL) の歴史上、画期的な演奏会の一つとして記録されることだろう。コンサートは休憩なしに進行し、上演時間は1時間15分と比較的短かったが、演奏に込められた圧倒的な力は比類なきものだった。指揮を務めたのは、新たに音楽監督に就任したジョシュア・ワイラースタイン Joshua Weilerstein。昨年夏にその就任が発表されると、団員たちからも歓迎され、その音楽作りはONLに新たな地平を切り開いているように思われる。
この日は、《ワルシャワの生き残り》の語りに俳優で歌手のランベール・ウィルソン Lambert Wilson を迎え、ショスタコーヴィチの交響曲にはウクライナのバス歌手ドミトリー・ベロセルスキー Dmitry Belosselskiy が出演し、さらにロンドンのフィルハーモニア合唱団 Philharmonia Chorus の男声部が加わった。
シェーンベルクの作品は、第二次世界大戦中のワルシャワ・ゲットーの生存者という設定のナレーターが、ユダヤ人収容所における死の恐怖を英語のシュプレヒゲザングで表現する。一方、ショスタコーヴィチの交響曲では、ウクライナのバビ・ヤールで1941年にナチス・ドイツが行ったユダヤ人虐殺の惨状と、ソ連における反ユダヤ主義を描いたエフゲニー・エフトゥシェンコ Evgueni Alexandrovitch Evtouchenko の詩を、バス歌手が歌う。両作品とも、男声合唱がユダヤ人の群衆を象徴する役割を果たしている。
《ワルシャワの生き残り》では、ランベール・ウィルソンの見事な語りが過剰な音響処理によって不明瞭になってしまったのが惜しまれる。しかし、終盤で男声合唱が立ち上がる際、一斉ではなく、いくつかのグループが順々に立ち上がる演出は非常に印象的であった。
1曲目の演奏後、舞台転換の間にワイラースタイン自身が曲目解説を行った。彼は2017年から「Sticky Note」というポッドキャストを配信しており、その総ダウンロード数は450万回を超える。このコンサートに合わせて配信されたショスタコーヴィチの交響曲についての50分間の特別エピソードでは、初めてフランス語で解説するという熱の入れようだ。この日は、そのポッドキャストの要約であろうテキストを読み上げる形式をとっていた。構成も論理的で明快であり、この長大な交響曲を聴くための貴重な手がかりとなった。
筆者はフランスの月刊文化誌「Transfuge(トランスフュージュ)」でも執筆しており、3月号にワイラースタインに関する記事を掲載した。その準備のために行ったインタビューにおいて、彼は「交響曲第13番は、ショスタコーヴィチが自身の音楽信条を最も明確に表現した作品のように思う」と語っていた。
また、「ショスタコーヴィチの作品の多くは、何らかの形でソ連の抑圧体制を批判している。しかし、この交響曲にはユーモアも含まれており、決してハッピーエンドとは言えないものの、全体として外へと開かれていく性格を持っている」と解説した。
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この曲はカンタータに近い形式を持つ5楽章構成であり(曲の詳細についてはこちらを参照されたい)、特にバス歌手のパートが極めて重要な役割を担う。演奏時間1時間の間、ほぼ歌い続けることを要求されるため、歌手には並外れたスタミナと緻密なエネルギー配分が求められる。
ジョシュア・ワイラースタインは、微妙なニュアンスや色彩といった細部を決しておろそかにせず、全体の構造をダイナミックに捉え、オーケストラの潜在能力を最大限に引き出す指揮を披露した。そして冒頭で述べたように、国際的な著名オーケストラにも匹敵する見事な演奏をつくりあげた。

2025年3月17日、パリ、フィラルモニでのリール国立管のコンサートから。ロシア音楽で重要な役割を果たす鐘は、オーケストラ後方席の上方に置かれ、天から音が降り注ぐような印象を与えていた。© Ugo Ponte-ONL
バス歌手ドミトリー・ベロセルスキーは、重厚な響きを持つ声で恐怖の体験を余すところなく表現した。特に、監視官や兵士が人々に向かって威圧的に怒鳴る場面は迫真に満ちていた。1時間の演奏の間、ほぼ歌い続けるにもかかわらず、その耐久力とエネルギーによって歌唱の質が一瞬たりとも落ちることはなく、その圧倒的な持続力には脱帽せざるを得ない。ロンドンのフィルハーモニア合唱団は、何よりもその均一性が際立っていた。自然な発声で無理がなく、洗練された響きの中に力強さを兼ね備えた表現は、数多くの合唱団の手本となるに違いない。
さて、シェーンベルクの英語の語りには字幕がついていたが、ショスタコーヴィチの歌詞と合唱には字幕がなかった。音楽の力だけで場面を十分に想像することはできたが、歌詞の内容が理解できていれば、さらに強烈な印象を与えただろうと思うと、やや残念であった。
演奏の最後には、コンサートマスターの田中綾子によるヴァイオリンとヴィオラが二重奏を奏で、静かに音楽の幕を閉じた。ホールはしばし静寂に包まれ、深い余韻を残した。
プログラム
アルノルト・シェーンベルク 《ワルシャワの生き残り》
ドミートリィ・ショスタコーヴィッチ 交響曲第13番《バビ・ヤール》
Orchestre National de Lille
Philharmonia Chorus
Joshua Weilerstein, direction
Lambert Wilson, récitant
Gavin Carr, chef de chœur
Dmitry Belosselskiy, basse
2025年3月17日 フィラルモニ・ド・パリ(パリ・フィルハーモニー)