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リール・ピアノフェスティヴァル デジタル版

par Victoria Okada

リールピアノフェスティヴァルのプログラム表紙

毎年6月の第二週末にフランス北部の中心都市リール Lille で開催されているリール・ピアノフェスティヴァル Lille Piano[s] Festival。新型コロナウィルスのため当地での開催が不可能となり、100%デジタル版の音楽祭を YouTube で配信することになった。
6月12日金曜日19時から14日日曜日22時まで、20ほどのコンサートがプログラムに上がっている。
ベートーヴェン生誕250年の今年はやはりベートーヴェンが中心だが、金曜日20時30分からのオープニングコンサートは、オール・ブラームスプログラム。演奏は昨年のチャイコフスキーコンクールで優勝したアレクサンドル・カントロフ Alexandre Kantorow。23歳になったばかりだがその成熟した音楽性は巨匠の演奏にも全く引けをとらない。
音楽祭はクラシックとジャズが大きな2本の柱だが、子供も交えて家族で聴けるコンサートや、ジャンル不問のコンサートもあり、さらにトークや解説を通して聴衆とのコミュニケーションも忘れない。

アレクサンドル・カントロフによるオープニングコンサートの配信画像

曜日ごとにプログラムを見てみよう。
オープニングコンサートに先立って、前座的に二つのコンサートが組まれている。まず19時にジャズの Xavi Torres Trio がアメリカから40分間、ベートーヴェンの有名なソナタをモチーフに自在に音楽を展開する。次に20時からトランペットのリュシエンヌ・ルノーダン=ヴァリー Lucienne Renaudin-Vary がアコーデオンのフェリシアン・ブリュ Félicien Brut と共演。

リュシエンヌ・ルノーダン=ヴァリーの最新アルバム

リュシエンヌは1999年生まれで、10代前半から演奏活動をはじめ、2016年にはヴィクトワール・ド・ラ・ミュージック賞の新人賞を受賞している。ワーナークラシックスからすでにアルバム(それぞれリール国立管弦楽団、BBC管弦楽団との共演)を2枚出している期待の若手。20時30分からのカントロフのリサイタルはブラームスのバラードop.10 とソナタ第3番へ短調op.5。そのあと21時30分から30分間、ジャン=フランソワ・ジジェル Jean-François Zygel がベートヴェンによる即興を行う。ジジェルはジャズとクラシックの間を行き来しつつ、クラシック音楽普及活動と呼べる演奏会やテレビ番組を多く手がけており、フランスの音楽愛好家にはおなじみの顔だ。彼は三夜続けて即興を行う(土曜日20時、日曜日18時30分)。金曜日最後のコンサートはジャズで、22時からエリック・トリュファーズ Erik Truffaz のトランペットと、ピアニストで作曲家のエストレイラ・ベッソン Estreilla Besson。22時50分からはリール国立管弦楽団 Orchestre national de Lille(リールピアノフェスティヴァルの主催機関)の音楽監督で指揮者のアレクサンドル・ブロック Alexandre Bloch が加わってトークが、そのあと23時05分からは「サウンド体験」とあるが何だろう?

土曜日は18時35分からベルナール・フォクルール Bernard Foccroulle によるオルガン演奏のあと、19時からベートーヴェンのチェロソナタ全曲演奏の第1回。エリザベート王妃国際コンクールの記念すべきチェロ部門第1回の優勝者、ヴィクトル・ジュリアン=ラフェリエール Victor Julien-Laferrière と、大きなスケールで包み込むような演奏に定評のあるジョナス・ヴィトー Jonas Vitaud の演奏だ(2回目は日曜日19時)。20時30分からはジャズピアニストのポール・ライ Paul Lay がベートーヴェンにオマージュを捧げる。21時30分からはアメリカからベートーヴェン演奏で知られたジョナサン・ビス Jonathan Biss が、《悲愴ソナタ》と27番、32番を演奏する。土曜の夜はまだ終わらない。22時35分から Izvora Quintet(ジャズ)、23時20分のこの日最後のコンサートにはエレクトロの Neebiic が登場。

日曜日は朝11時と午後14時から毎年恒例のファミリーコンサート。朝はシネコンサートで、ピアノ、パーカッション、シロフォン、効果音がついた短編アニメを楽しく鑑賞。午後は ロマン・デュボワ Romain Dubois が「ピアノ・ゾロ」と題したミニマルでリズム感あふれる演奏を披露する。17時10分から50分間、アルバニア出身の注目の若手マリー=アンジュ・グチ Marie-Ange Nguci が、ベートーヴェンを中心に、バッハ/ブゾーニ、フローベルガー、ラヴェル、スクリャービンというプログラムで弾く。彼女は独創性あるプログラムを組むことが多く、興味の広さをうかがわせる。20時からダヴィッド・カドゥシュ David Kadouch をソリストに迎え、アレクサンドル・ブロックリール国立管弦楽団を指揮してベートーヴェンのピアノ協奏曲3番を演奏。カドゥシュは決して派手さはないが堅実なピアノで地道に活動を繰り広げている、もっと知られてもいい演奏家。フェスティヴァル最後のコンサートはニューヨークからダン・テプファー Dan Tepfer のジャズピアノ。彼はフランス系でパリにあるご両親宅ではサロンコンサートを随時開催している。

© Abbaye de Vaucelles

毎年の音楽祭では、リール以外にも同地方のゆかりある場所でコンサートが開かれている。作家マルグリット・ユルスナー Marguerite Yourcenar やフランス大統領を務めたシャルル・ドゴールCharles De Gaulle の家でのコンサートや、とくに3年ほど前からは、1131年創設で、2007年に修復が終わり数年前から文化施設として蘇ったヴォーセル修道院 Abbaye de Vaucellesで日曜日を一日過ごすこともできるプログラムが組まれている。今回のネット配信コンサートはリール国立管弦楽団の拠点ホールヌーヴォー・シエクル Le Nouveau Siècleのみだが、外出制限後の観光業の回復に貢献できるような、コンサート会場となっている名所巡りのビデオがあってもよかったのではないだろうか。

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