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第4回「エトワール・デュ・クラシック」ガラコンサートレポート

若手の躍動と熟練の輝き

par Victoria Okada

若手ヴァイオリニスト、トマ・ルフォール Thomas Lefort が創設した音楽祭「エトワール・デュ・クラシック Les étoiles du classique」が今年で4回目を迎えた。会場はパリ近郊、サン・ジェルマン・アン・レー Saint Germain en Laye 市にあるアレクサンドル・デュマ劇場。6月29日、5日間にわたる音楽祭の掉尾を飾るガラコンサートが開催された。

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若手育成を掲げたユニークな音楽祭

この音楽祭はルフォールがパリ国立高等音楽院の卒業論文として構想した「音楽祭運営」を、そのまま実現したものである。初回開催から改良を重ね、市の全面的な協力を得て、今や公式文化行事として定着した。音楽祭の目的は、若手演奏家に実践の場を提供すること。学生や新進気鋭の若手を中心に特設オーケストラを編成し、そこに中堅・熟練演奏家が加わる形で、世代を超えた共演が実現する。

城の街で育つクラシック音楽

サン・ジェルマン・アン・レーは、中世からルネサンス期の城やドビュッシーの生家で知られる美しい街。これまでガラコンサートは城前の屋外で行われていたが、今年からは、他のコンサートと同様、アレクサンドル・デュマ劇場に会場を移した。6月末の高温や野外設営の負担を考慮しての変更だ。
今年は10公演、総勢約200人が出演。中でも注目されたのが、パトリス・フォンタナローザ Patrice Fontanarosaローラン・コルシア Laurent Korcia、イヴ・アンリ Yves Henry、ジェレミー・メニューイン Jérémy Menuhin、ピアノデュオのデュオ・ヤテコック Duo Jatekokといった錚々たる顔ぶれ。また日本からは務川慧悟(6月26日)、小林愛実(6月27日)が出演した。残念ながら両公演は聴くことができなかったが、いずれも盛況であったという。

 

指揮のスワン・ヴァン・ルシェン(左)と音楽祭創設者で芸術監督のトマ・ルフォール(右) 「エトワール・デュ・クラシック」音楽祭 2025年6月29日 © Didier Blouin

 

劇場に響く若きエネルギー

司会を務めたのはフランス・ミュジークの人気パーソナリティ、クレマン・ロシュフォール Clémant Rochefort。軽妙なトークとインタビューで終始和やかな雰囲気を作り出していた。特設オーケストラを指揮したのは、昨年のブザンソン指揮者コンクールで三冠を獲得した俊英スワン・ヴァン・ルシェン Swann Van Rechem。27歳という若さで出演者の多くと同世代であり、舞台上には親密さと活気が溢れていた。
プログラムはフランス音楽を中心に、短い楽章や小品を連ねた華やかな構成であった。コンサートではとくにステファニー・フアング Stéphanie Huangジュリアン・トレヴェリアン Julian Trevelyan が印象に残ったので、記しておこう。

ステファニー・フアング(チェロ)

チェロのステファニー・フアング(フランス語風に発音すればウアング)は、現在パリ管弦楽団の主席チェロ奏者の試験採用中であるが、同団の公式サイトではすでに「主席チェロ」として紹介されている。彼女は時折、ピアニスト務川慧悟とデュオを組んでおり、音楽的に相性が良いようだ。2022年のエリザベト王妃国際音楽コンクールではファイナリストとなりながら上位6位入賞を逃したものの、その活躍度と知名度はコンクールの結果を超えるものである。深く包み込むような音色と確かな技術に裏打ちされた演奏は聴く者の心を強く捉える。この日のガラコンサートでは、ドヴォルザーク《チェロ協奏曲》の終楽章を取り上げ、勇壮さと繊細さを兼ね備えた見事な演奏を聴かせた。劇場内は冷房がなく、舞台上はかなりの高温で楽器にも大きな負担がかかる環境であったが、フアングはその不利な状況をしっかりと考慮に入れ、響きやフレーズを柔軟に調整しながら、安定感のある音楽を作り上げていた。なお、姉のシルヴィア・フアングもヴァイオリニストであり、2019年のエリザベト王妃国際音楽コンクールでファイナリストに名を連ね、現在はブリュッセル・モネ劇場管弦楽団のコンサートマスターを務めている。

 

ステファニー・フアング 「エトワール・デュ・クラシック」音楽祭 2025年6月29日 © Didier Blouin

 

ジュリアン・トレヴェリアン(ピアノ)

ピアノのジュリアン・トレヴェリアンは、2015年のロン・ティボー・コンクールで史上最年少となる16歳で優勝した逸材である。受賞後数年間は若さゆえかレパートリーの少なさや経験不足が目立ち、演奏に危うさを感じさせる場面もあったため、コンクールの結果に疑問を抱く声も少なくなかった。しかしその後、著名な教師や演奏家のもとで研鑽を積んでいる。とくにパリのエコールノルマル音楽院で名教師レナ・シェレシェフスカヤのもとで演奏を磨き、2019年にコンサーティスト・ディプロマを取得している。現在は同音楽院でシェレシェフスカヤのアシスタントを務めている。私自身、これまで彼の演奏をいくつか聴いてきたが、この日のラヴェル《左手のための協奏曲》では、以前に比べ明らかにスケールが大きくなり、音楽の深みが増していた。派手さはないが、着実に成長を遂げつつある好演奏家であると強く感じた。

「先輩」演奏家として、ローラン・コルシア(ヴァイオリン)、ロマン・ルルー Romain Leleu(トランペット)、アナイス・ゴドマール Anaïs Gaudemard(ハープ)、作曲家でもあるタティアナ・プロブスト Tatiana Probst(ソプラノ)が登場、ステージに華を添えた。

アナイス・ゴドマール(ハープ) 「エトワール・デュ・クラシック」音楽祭ガラコンサート 2025年6月29日 © Didier Blouin

 

ガラコンサートは音楽祭の最後のコンサートとあって、終了後にカクテルが振る舞われ、和やかな談笑の中にのべ5日間の音楽祭が幕を閉じた。「エトワール・デュ・クラシック」は、単なる音楽祭ではなく、次代の音楽家を育む“出会いの場”として確実に存在感を増している。来年、この舞台からどんな新しい才能が羽ばたくのか、今から楽しみである。

プログラム

司会 Clément Rochefort (France Musique)

Hector BERLIOZ : La Damnation de Faust Op.24 – Marche Hongroise​
​Hector BERLIOZ : Rêverie et Caprice Op.8​
Thomas LEFORT, violon

François-Adrien BOIELDIEU : Concerto pour harpe et orchestre en Do min (arr. C. Stueber) – III. Rondo
Anaïs GAUDEMARD, harpe

Camille SAËNS-SAENS : « Mon cœur s’ouvre à toi » extrait de Samson et Dalila
Joseph HAYDN : Concerto pour trompette et orchestre en Mi bémol majeur III – Finale
Romain LELEU, trompette

Antonin DVORAK : Concerto pour violoncelle Op.104 III – Finale
Stéphanie HUANG, violoncelle

休憩

Emmanuel CHABRIER : Habanera

Jean SIBELIUS : Concerto pour violon en ré mineur Op. 47 – II. Adagio di molto
Laurent KORCIA, violon

Georges BIZET : Je dis que rien ne m’épouvante (extrait de Carmen)
Charles GOUNOD : Dieu ! Que de bijoux ! (extrait de Faust)
Tatiana PROBST, soprano

Maurice RAVEL : Concerto pour la main gauche
Julian TREVELYAN, piano

Camille SAINT-SAËNS : Bacchanale (extrait de Samson et Dalila)

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Orchestre Symphonique des Étoiles du Classique
Swann VAN RECHEM, chef d’orchestre
Laurent KORCIA, violon
Tatiana PROBST, soprano
Anaïs GAUDEMARD, harpe
Romain LELEU, trompette
Stéphanie HUANG, violoncelliste
Julian TREVELYAN, piano
Thomas LEFORT, violon

2025年6月29日 18時30分 サン・ジェルマン・アン・レー、アレクサンドル・デュマ劇場

https://www.lesetoilesduclassique.fr/galasymphonique

 

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