12月10日に行われたイル・ド・フランス国立管弦楽団の非公開コンサートは、2019-2020年シーズンから音楽監督に就任したケース・スカグリオーネの指揮で、折衷的なプログラムとダイナミックな演奏が際立った面白いものだった。
マリー=アンジュ・グッチの大きな音楽観
まずドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』。柔らかさはあるものの官能的というよりはどこか角ばった感が否めない。続いてアルバニア出身の23歳のピアニスト、マリー=アンジュ・グッチがラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲 イ短調 作品43』を演奏。彼女はコンサートで演奏するのは数ヶ月ぶりだそうで、コンサート後に舞台裏で会った時、「客席に誰もいないホールで弾くのは未知だった」と打ち明けてくれた。そんな不安とは裏腹に、紛れもなく成熟した演奏を聞かせた。
13歳でパリ国立高等音楽院に入学し、ニコラ・アンゲリッシュに師事した彼女のピアノには、知性、全体的な作品観、分析力が常に見て取れるが、それがさらに明白になっている。『パガニーニ狂詩曲』では彼女の長所が曲全体を貫くとともに、曇りのないテクニックが見事だ。溌剌とした部分としっとりとした部分、力強い部分と繊細な部分のコントラストを際立たせ、モチーフやフレーズ、セクション間の関係性を明らかにしながら、構成力で聴かせていく。
しかし、観客がいないことで手応えがなかったのか、燃えるような盛り上がりは期待したほど得られなかった。それは、決してインスピレーションに欠けているからではなく、観客との無言の掛け合いが生み出す高揚がなかったためだろう。普段のコンサートならばもっと素晴らしいものになっていたのは間違いない。
ドラマ性あふれる「美しく青きドナウ」と色彩感に富んだ「ルーマニア狂詩曲」
ピアノを移動させる間しばし待って、ヨハン・シュトラウス2世の『美しく青きドナウ』を聴く。このような曲をプログラムにかけるスカグリオーネの個性が光っている。通常は軽い娯楽的な音楽とされることの多いこのワルツを、非常にシンフォニックに扱っているのが新鮮だ。それぞれのワルツ・セクションのテンポはかなり異なり、時には楽章が変わるのと同じほど違うこともある。いくつかのセクションは驚くほど速く、その上、繰り返しには同じテンポを採用しない。これまでの慣れ親しんだ聴き方が覆されると言っては大げさになるだろうか。しかし実際に、新しい視聴アプローチがいやでも必要になるような演奏だ。楽器の色を豊かに生かし、音のテクスチュアや明暗を強調するなど、ドラマ性にあふれた解釈を見せている。そしてスカグリオーネは、普段は微笑みの絶えないシュトラウスのワルツに深い影を投げ、肉厚なボリュームを与えて、彫りの深い音楽に変貌させたのだ。
最後に演奏したジョルジュ・エネスクの『ルーマニア狂詩曲』op.11-1では、この色と音のテクスチュアをさらに深めている。オーケストラは、各楽器のソロごとに、微妙に変貌し続ける憑かれたようなリズムに乗ってさまざまな音色を披露する。
スカグリオーネは「狂詩曲」の色々な顔を見せるプログラムを組んだと言えるかも知れない。『牧神の午後への前奏曲』は穏やかで繊細な狂詩曲といえるし、『美しき青きドナウ』では一種の幻想狂詩曲ともいえる解釈を披露したのだから。
コンサートのプログラムはこちら。
2020年12月10日、パリ・フィルハーモニー、ピエール・ブーレーズ・ホール。
La Philharmonie Liveと、ONDIF Liveで中継。リプレイ中。