Accueil レヴュー舞台コンサート パリ・オペラ座の『ニーベルンゲンの指環』

パリ・オペラ座の『ニーベルンゲンの指環』

par Victoria Okada

パリ国立オペラの現音楽監督フィリップ・ジョルダンが、ウィーン国立歌劇場へ移籍する前に、最後のプロジェクトとして実現したワグナーの『ニーベルンゲンの指環』四部作。もともとオペラ座350周年のプロジェクトの一環として、Calixto Bieitoの演出で本年4月から11月にかけて上演されるはずだった。これと同時に、ガルニエ宮では5月から9月まで« L’aventure du Ring en France »(フランスにおける『指環』)展が開催される予定で、ファンの期待はいやでも高まっていた。

それが世界的な新コロナウィルス禍による2度のロックダウンと劇場閉鎖で、プロジェクトそのものが暗礁に乗り上げるかと思われた。常に変動する衛生状況の中、演出が除外され、キャストも二転、三転。それでもフィリップ・ジョルダンはじめスタッフもミュージシャンも『四部作』を実現しようと、なんとかプロジェクトを維持するべく動き始める。
今回、四部作をコンサート形式で舞台にかけるとした場合、様々な要素の兼ね合いから1回限りのシリーズ上演は難しく、2回目のシリーズがどうしても必要となった。これをどうやって実現するのか。幸い、国営ラジオ、ラジオ・フランス傘下のFrance Musiqueが協力を提案。当初オペラ座独自のプロジェクトだった『指環』上演は、オペラ座とラジオ・フランスの共同プロジェクトとなり、録音として留められることとなった。その間、2回目の劇場閉鎖によって、本番がたった1回、それも無観客上演を余儀なくされ、11月末から12月初めにかけてバスティーユのオペラ座とラジオ・フランスのオーディトリアムで録音された。

バスティーユ・オペラでの『神々の黄昏』の録音風景 © Victoria Okada

その模様をドキュメンタリーにまとめた Odyssée du Ring (『指環』のオデュッセイア)が、オペラ座の新しい有料配信プラットフォーム Opéra chez soi で24日から無料で公開されている。

録音の順序はまずバスティーユで『ワルキューレ』、ついで『ラインの黄金』、そして『神々の黄昏』の後、最後にラジオ・フランスで『ジークフリート』。それぞれゲネプロと本番の2回分を録音し、少々編集したもの(だが、録音技師によると、手直しは最小限にとどめており、ほとんどライブに近いものだそうだ)が12月26日から1月2日までFrance Musiqueで放送される。同局のサイトでは放送後1ヶ月間聴くことができるが、その後は削除されるそうで、今のところCD化の計画もないという。オペラ座の内部および放送資料として保管されるということだろうか。その場で実際に聴いた人々は、4作品すべてについて気迫のこもった稀な完成度を絶賛しており、いずれ音源が公開されることを期待したい。

四部作を指揮するフィリップ・ジョルダン © Elisa Haberer-Opéra national de Paris

実は私も『神々の黄昏』と『ジークフリート』の上演・録音セッションに立ち会うことができた。招待されたジャーナリストや関係者は、毎回多くて20人程度。オペラ座の新総裁のアレクサンダー・ネーフ氏は全回とも姿を見せ、全面的な支援を表明した。そのことはこのドキュメンタリーの最初に本人が語っている。最後のセッションとなった『ジークフリート』にはラジオ・フランス総裁のシビル・ヴェイル氏や、文化大臣のロズリーヌ・バシュロ氏も姿を見せた。

最終セッション(ラジオ・フランス、オーディトリウム)でのネーフ新総裁(左)© Victoria Okada

現在最高峰のワグナー歌手を揃えた『四部作』は、声と表現の素晴らしさはもとより、ドイツ語の明瞭さ(ジョルダン氏はドキュメンタリーの中で、「ドイツ語がわからない人が聴いてもイントネーションなどから光景をつかめるように努力した」と発言しているが、全くその通りで感服した)、オケ団員の演奏に対する熱のこもった取り組み、そこから生まれ出る演奏の深みなどが一体化して、聴くものをグイグイと引き込む魔力を放ち、おそらくはワグナー演奏史に名を残すであろう名演が実現した。

超人的な歌唱を披露したジークフリート役のアンドレアス・シャーガー © Elisa Haberer-Opéra national de Paris

フィリップ・ジョルダン氏は、音楽監督に就任した時、2012年のワグナー年、として今回と、3度にわたって『指環』を指揮した。在任中の通算12年の間に彼の『指環』観も変化し、コンサートでべートーヴェンの交響曲全曲演奏会を実現して今回の上演に望んだ。「ベートーヴェンの全曲演奏はプログラムとしてはオリジナリティに欠けているかもしれませんが、オペラ座のオーケストラにとっては初めての経験でした。ワグナーの『指環』を踏破するのに、ベートーヴェンのシンフォニー全曲を弾けずしてどうやって上演できるのか」と語っているほどだ。彼の中でベートーヴェンからワグナーへの繋がりが明確に確立されたのだろう。

ラジオ・フランスのオーディトリウムで全録音終了後、歌手たちを称えて © Victoria Okada

最後の音が鳴り終わった時、万感の意を込めてオーケストラの団員たちに向かって感謝を表明したマエストロ。『四部作』というモニュメントとともにパリで開いた一つの章を同じ『四部作』で閉じ、新しい旅路へと向かう。その行き先はウィーン国立歌劇場。オペラ座オーケストラのミュージシャンたちも、豊かな思い出を胸に、新しい総裁、新しい音楽監督とともに、新しいページを綴っていくことだろう。

終了後オケからの贈り物を受け取るジョルダン氏 © Victoria Okada

France Musique ワーグナー四部作放送予定(全て仏時間で20時より):

2020年12月26日『ラインの黄金』、28日『ワルキューレ』、30日『ジークフリート』、2021年1月2日『神々の黄昏』

フィリップ・ジョルダン公式サイト
France Musique
France Musique『四部作』ルポ

トップ写真 : 神々の黄昏の録音風景 © Elisa Haberer-Opéra national de Paris

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