2019年4月の大火災以来、他の場所で活動しているパリ・ノートルダム大聖堂聖歌隊 Maîtrise Notre Dame de Paris が、12月に火災後初めて大聖堂内でコンサートを行い、その様子が24日深夜に国営テレビ局 France 2 で放映されました。
番組は現在、カトリック系ケーブルテレビ KTOのサイトで視聴できます。
同日朝、ラジオFrance Musiqueで生放送のインタビューに答えた聖歌隊主任指揮者のアンリ・シャレ Henri Chalet 氏は、火災当時すでに団員だった歌手の中から8人を厳選し、クリスマスにちなんだ曲を演奏。公式オルガニストの一人、イヴ・カスタニェ Yves Castagnet 氏がポータティブオルガンで伴奏し、ソプラノのジュリー・フックス Julie Fuchs 氏とチェロのゴーティエ・キャプソン Gautier Capuçon 氏が友情出演しました。
歌っているのは祭壇の後ろの周歩廊(déambulatoire)と呼ばれる場所です。フランスのゴチック建築によく見られるシュヴェ(chevet、最奥部に放射状に設置された礼拝堂)の前です。比較的被害が少なく、以前の面影をよく残しています。
大聖堂は現在、建物全体が工事現場であることから、内部に入るには防護服とヘルメットの着用が義務付けられています。シャレ氏によると、この防護服は普通は白いものですが、普段の聖歌隊のユニフォームの色である青い防護服を見つけてきて、少しでも通常のコンディションに近いものにしたとのこと。下のビデオは火災前日の4月14日日曜日、「枝の祝日」のミサで、青い制服で歌っている聖歌隊の映像です。
ヘルメットの前面には Etablissement public chargé de la conservation et de la restauration de la cathédrale Notre-Dame de Paris (パリ・ノートルダム大聖堂保存修復公共機関)とあります。Etablissement public とはヴェルサイユ宮殿やルーブル美術館、オルセー美術館など、特に重要な文化施設の運営を目的として設立されたシステムで、国の直接の管轄下に置かれています。
ノートルダム大聖堂の聖歌隊の名称 Maîtrise Notre-Dame de Paris にあるMaîtrise(メトリーズ)というのは、教育機関を兼ねた合唱隊のことで、必ずしも教会付属とは限りません。例えばMaîtrise des Hauts de Seine(オー・ド・セーヌ県少年少女合唱団)は日本語ではパリ・オペラ座少年少女(児童)合唱団と訳され、オペラ座での公演に出演しています。こういった合唱団はフランス全国各地に数多く存在します。通常、小学生課程から登録でき、学年が進むと、フランス独自の教育システムであるHoraires aménagées (オルール・アメナジェ。午前中は通常の学校教育カリキュラム、午後は音楽など専門のカリキュラムで構成された特別コース)で勉強を続けることができ、大学相当の専門課程まで存在します。ヴェルサイユ宮殿礼拝堂付属の合唱団 Pages et Chantres もこのモデルに沿っています(chantresの養成期間は30歳まで)。カリキュラムは中世の単声・ポリフォニー音楽から21世紀の新作まで音楽史全体をカバーし、幅広い知識とスタイル、テクニックを身に付けることができます。
欧州各地には、主に教会聖歌隊に源を発する教育機関が伝統的に存在しますが、欧州のオペラ歌手や有名アンサンブルの団員の中には Maîtrise を含むこれらの教育機関出身の人が多く、世界中で活躍しています。
写真はKTOTVの配信画面キャプチャ。