第1幕
さて、第1キャストでの上演は、仏独テレビ局のアルテArteのサイトで、12月29日までフリー視聴が可能だったので、こちらを見た(というか見ながらこれを書いている。追記1月2日:今日見ると、視聴期間が6月15日まで延長になっていた)。
今は第1幕のアルマヴィーヴァ伯爵とフィガロのデュエット。アルマヴィーヴァ役はイタリアのミケーレ・アンゲリーニ Michele Angerini、フィガロ役はフランスのフロリアン・サンペ Florian Sampey。アンゲリーニは最初は少々不安定だが、徐々に調子をあげている。サンペは最初から好調。この人は幅と響きのある明るい声もさることながら、なかなかの役者で、舞台映えの度合いが抜群にいい。そのためか、アンゲリーニの存在感が薄いように感じる。バランスの問題と言ってもいいかもしれない。
劇場で見たときは、距離があってよくわからなかったが、至近距離での撮影で見ると、フィガロの腕の偽の刺青は、なんと音符とロッシーニの顔だ。演出家ローラン・ペリ Laurent Pelly は、詳細にこういう茶目っ気のきいたことをする。それがなんともいい。
ロジーナのアリアが始まった。歌うのはフランスのカトリーヌ・トロットマン Catherine Trottman。(以前、同姓同名の文化大臣がいたが、もちろん全く別人。)彼女は近年、フランスのグラミー賞ともいえる「ヴィクトワール賞」にノミネートされたりしていたが、役でも声でも、聞く人にその存在を植え付けるにはもう少し時間がかかりそうだ。第2キャストに起用してもよかったように思う。
今バジリオが出てきた。カナダのバスバリトン、ロバート・グリードウ Robert Gleadow だ。役作りも歌いぶりもハマっている。主役以外にこういう歌手を器用して最大限に表現の可能性を与えるのは、キャスティング担当者や演出家の腕の見せ所だろう。そして、オペラが舞台作品として本当に息づくには、脇役のパフォーマンスが鍵だと言っても過言ではないと思う。
今、バルトロと、兵士に変装したアルマヴィーヴァのデュエットだが、やっぱりアンゲリーニはちょっと弱いように感じる。存在感も、声も。
ああ、これこれ。第一幕の終わりごろ、シチュエーションが大変になったことを歌う五重唱で、フィガロが救世主のように出てくるところ。人差し指を立てて天から降りてくる。これは完全にバロック絵画のパロディだ。ペリはこういう細かい所の演出が憎いほどうまい。このような効果で観客を喜ばせるのは、根っからの劇場人間にしかできない技だと思う。私がペリを最高の演出家の一人に挙げるのは、緻密に計算された動きと新鮮な驚きが、音楽にぴったりとマッチしながら同居していて、それらの効果が何倍にも増幅するような舞台をつくるからだ。
いよいよ第1幕のフィナーレ。ソリストとオケと合唱のトゥッティ、フォルテでみんなが楽譜を投げ飛ばす。見応え十分。
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[…] Et un autre article, en japonais, sur la distribution I, d’après la retransmission sur le site Arte Concerts est ici. […]