フランスのガイスター・デュオは、昨年、ミュンヘン国際コンクールで優勝し、5つの特別賞を総なめにして一躍注目されるようになった。マニュエル・ヴィエイヤールとダヴィド・サルモンは、10年ほど前、パリ地方音楽院の在学中に、あるスタージュ(集中講座)で知り合い、デュオとして弾くようになった。
彼らは2台ピアノの他に、4手連弾のレパートリーを広く手がけている。広く知られている4手連弾の曲はいまだ限られているが、コンサートのプログラムにのぼることのない曲には傑作がまだまだ多い。「なぜ弾かれないままでいるのかが疑問」として、これらを精力的に演奏会で取り上げる。
今回ミラーレから発売された初のCDには、そんな彼らのこだわりがよく表れている。収録曲はシューマンの『東方の絵』、ブラームスの『シューマンの主題による変奏曲』、ドヴォルザークの『ボヘミアの森』。どれもほとんど聴かれることがない曲ばかりだ。ここに収録のブラームスの変奏曲 op.23 の主題は、シューマンの『ガイスター変奏曲』のテーマを利用したものだが、これがガイスター・デュオの名前の由来となっている。これら2曲の間の関連性を感じながら聴くのも面白い。しかし、とくに『ボヘミアの森』は、彼らが言うには4手の可能性を最大限に利用した最高傑作だ。
彼らが奏でるヴァラエティに富んだ曲想や、時に室内楽的、時に交響楽的な響きに、すぐに自然に引き込まれていく。演奏はリズムが明快でダイナミズムに富み、ピアノという楽器をよく響かせ、爽快な気分にさせてくれる。そこには、4手連弾のメカニズムを熟知している演奏家のみが創出し得る響きがある。
マニュエル・ヴィエイヤールはプリモ(高音部)、ダヴィド・サルモンはセコンド(低音部)と、担当を固定している。それは、オーケストラのそれぞれの楽器に、音域や楽器の性質などに特化した役割があるように、4手連弾の楽譜においても、プリモにはプリモの、セコンドにはセコンドの役割が明確に与えられており、それを追求するのが良い演奏の秘訣だと考えているからだ。それは、曲の理解をも大いに助けるという。
4手連弾曲はブラームスの『ハンガリー舞曲集』やドヴォルザークの『スラブ舞曲集』、またはフォーレの『ドリー組曲』だけではない。まだ多くの名曲が眠っている。これらを多くの人に広く聞いてもらいたいというガイスター・デュオに、大いに期待したい。
1 CD Mirare MIR 610, 61’
Robert Schumann (1810-1856) : Bilder aus Osten (東方の絵) op. 66
Johannes Brahms (1833-1897) : Variationen über ein Thema von Robert Schumann (ロベルト・シューマンの主題による変奏曲) op. 23
Anton Dvořák (1841-1904) : Ze Šumavy (ボヘミアの森) op. 68
シューマンの『東方の絵』より。フランス・ミュージックのラジオ番組でのライブ録音