Accueil レヴュー舞台スペクタクル ガルニエ宮でクルレンツィスが振る『カストールとポリュックス』

ガルニエ宮でクルレンツィスが振る『カストールとポリュックス』

今年初め、パリはバロックオペラの都となった その2

par Victoria Okada
CASTOR ET POLLUX, Palais Garnier, 2025

パリ・オペラ座のガルニエ宮では、120日から223日までの約1ヶ月にわたり、ラモーの『カストールとポリュックス』が上演されている。話題の中心は、なんと言っても、テオドール・クルレンツィス Teodor Currentzis が新たに創設した「ユートピア」オーケストラ・合唱団を指揮している点だ。

キャストには、レイナウト・ファン・メヘレン Reinoud Van Mechelen(カストール)、マルク・モイヨン Marc Mauillon(ポリュックス)、ジャニーヌ・ド・ビック Jeanine De Bique(テライール)、ステファニー・ドゥストラック Stéphanie d’Oustrac(フェーベ)といった錚々たる歌手たちが名を連ねる。まだ不安定な要素が多いプルミエは避け、123日の公演を観た。

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クルレンツィスによる質の高い演奏

今回の上演で最も賞賛されるべきは、おそらく「ユートピア」オーケストラと合唱団の奏でる音楽の完成度の高さだろう。クルレンツィスの解釈は、手放しで賛同する人と嫌悪感を抱く人に極端に分かれる。12月初めにパリのフィラルモニ(フィルハーモニー)でパリ・オペラ座管弦楽団を指揮した演奏会も含め、何度か聴いた印象としては、彼の音楽づくりには説得力があると言わざるを得ない。 アリア「Tristes apprêts」では、必要以上にゆったりとしたテンポで奏でるオーケストラと、声が大気の中に溶け込んで消えてしまうようなpppで歌うジャニーヌ・ド・ビックが一体となり、音楽美の極地とも言える至高の瞬間を生み出していた。一方、「私の心を分かち合う自然よ、愛よ」と歌う際の、完璧にコントロールされた息の中に深い感情を宿すマルク・モイヨンの歌唱力。ファン・メヘレンの真っ直ぐで朗々とした、それでいて何とも言えないまろやかさを兼ね備えた見事な声が、モイヨンと絶妙な調和を見せる様子(カストールとポリュックスは、双子座の由来となったギリシャ神話上の双子の兄弟である)。さらに、多くの声がまるで一つの声のように溶け合う、字義通り「合わせて唱う」合唱団の素晴らしさ。

 

 

これらの特筆すべき点に加え、細かいアイデアが散りばめられた解釈は、クルレンツィスという奇才と、彼の音楽に賛同する音楽家たちによってともにつくり上げられた賜物だろう。現在頻繁に見られる、上演までの練習とリハーサルが合わせて1〜2ヶ月ほどしかない客員指揮の環境で、果たしてここまで音楽を練り上げることができるだろうか。そう考えると、自らのオーケストラと合唱団を率いて理想の音楽を追求できることは、最上の贅沢と言えるのではないか。そして、そうやって作り上げられた音楽を聴く聴衆もまた、その贅沢を分かち合う恩恵を受けているのだ。

 

CASTOR ET POLLUX, Palais Garnier, 2025

Jean-Philippe RAMEAU : CASTOR ET POLLUX, Palais Garnier, 16 janvier 2025 © Vincent PONTET

 

郊外の工業地帯を舞台にしたピーター・セラーズの演出

そんな演奏に対して、ピーター・セラーズ Peter Sellers の演出にはいささか失望した。舞台には大きな長椅子とテーブルが置かれ、左には簡易シャワー室、右にはキッチンが設置されている。まるで典型的な団地のリビングルームのようだ。衣装も郊外の若者のようなカジュアルなものだった。 舞台奥のスクリーンには常時ビデオが投影され、大都市郊外の工業地帯の風景や宇宙の星々が映し出される。しかし、同じような動画が何度も繰り返されるため、次第に単調に感じられた。(宇宙の映像自体は美しかったが。)さらに、ダンサーが終始舞台上でさまざまな動きを続けている。彼らがなぜそこにいるのか、なぜそのような動きをしているのかが分からないことも多く、注意が散漫となり、音楽的にも視覚的にも焦点をどこに定めればよいのか戸惑う場面が多かった。 これを詩的だと感じた観客も多かったようだが、一度観た限りでは音楽との一貫性があまり感じられず、残念な印象を受けた。何度か観れば演出の意図がより明確に理解できるのかもしれない。

 

 

追記 224日 「Tristes apprêts」のビデオが出ていたので追加しておきます。

 


Cast

Tragédie lyrique en un prologue et cinq actes 1737
Musique : Jean-Philippe Rameau (1683-1747)
Livret : Pierre-Joseph Bernard

Direction musicale Teodor Currentzis

Mise en scène : Peter Sellars
Chorégraphe principal : Cal Hunt
Vidéo : Alex MacInnis
Décors : Joëlle Aoun
Costumes :
Camille Assaf
Lumières : James F. Ingalls
Dramaturgie : Antonio Cuenca Ruiz
Chef des Chœurs : Vitaly Polonsky*
Orchestre et Chœur Utopia*

Telaïre : Jeanine De Bique
Phébé : Stéphanie d’Oustrac
Une suivante d’Hébé, Minerve : Claire Antoine*
Une ombre heureuse, Vénus : Natalia Smyrnova*
Castor, l’Amour : Reinoud Van Mechelen
Pollux : Marc Mauillon
Mars, Jupiter, un Athlète :Nicholas Newton*
Le Grand Prêtre, l’Athlète : Laurence Kilsby
*
Danse et chorégraphie : Cal Hunt, Christopher Beaubrun*, Jin Lee Baobei*, Andrew Coleman dit « Finesse »*, Xavier Days dit « X »*, Ablaye Diop, Ange Emmanuel dit « Kendrickble »*, Kenza Kabisso*, Joshua Morales dit « Sage »*, Tom Mornet Bouchiba*, Cordell Purnell dit « Storm »*, Sarah Querut*, Edwin Saco dit « Jamsy », Océane Valence*

* Débuts à l’Opéra national de Paris

Représentation du 23 janvier, Opéra national de Paris – Palais Garnier

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