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レヴュー《パリ・シェリー》Paris Chéri(es)

par Victoria Okada

この記事は、2017年1月にMixiに投稿したものを、2020年12月に編集し直したものです。

パリのエスプリがたっぷり! ちょっぴり(時にかなり)エロチックなファンタジー・レヴュー

年のはじめに肩のこらないショーを見るのは楽しい。19世紀からずっと続く、パリならではの小さな劇場でのショーなら、その楽しみは倍増する。今日は1月7日に見た、ベル・エポックのミュージックホールを彷彿させるレビューを紹介しよう。

トレヴィズ劇場

『パリ・シェリー』が上演されたトレヴィズ劇場 Théâtre Trévise は、19世紀末に建てられた建物の一部を占拠する形で存在する。実はパリには、住居用建物の一部に組み込まれた劇場が多い。このような舞台は、スペースも限られていることから、座席数も100席から300席くらいの小・中規模なもので、まだ映画もラジオもテレビもなかった19世紀に、主要な娯楽場として、ミュージックホールなどとともに、人々が集う場所だったのだ。私がパリでいつも感心するのは、このようなスペースをそのまま引き継いで(残念ながらいろいろな事情から取り壊されたものもあるが)、今でも連綿とショーの伝統が継承されていることだ。舞台ソデも狭く、緞帳も時にはかなり傷んでいて、内装も昔のままの、場所によっては「時代おくれ」な感もするこれらの劇場だが、デビューしたての駆け出しからベテランまで、さまざまなアーティストが毎夜、お笑いショーや、ワンマンショー、演劇、ミュージカルなどで、パリジャンたちを楽しませてくれる。本当にパリの日常に密着したスペクタクルを見たいなら、ぜひこういう小さな劇場に行くことをお勧めする。

Théâtre Trévise ©DR

トレヴィズ劇場に話を戻そう。ここが劇場として開場したのは1992年で、日本でもよく知られた伝説のミュージックホール、フォリー・ベルジェールや、アントワーヌ劇場(それまでの演劇コードを破って自然主義的な路線であらゆる試みを行ったかつての「自由劇場」)からほど近い場所にあり、座席数は270席。ワンマンショーやお笑い系の出し物が多く、毎週日曜日20時30分からは、これからデビューを目指す若いお笑いアーティストなどに自由に解放されており、今ではフランスお笑い界のスターや常連となった「芸人」たちを、幾人も檜舞台に送り出している。今ではなくなってしまったようだが、10年ほど前まではその様子が毎週テレビ収録されていて、深夜に放送されていた。
トレヴィズ劇場は、1994年に、日本の重要文化財に相当する「歴史モニュメント」に指定されている。建物はかなり古く、壁には手垢がついていて、劇場のシートもかなりくたびれている。「歴史モニュメント」指定の建物や物品(芸術・工芸作品や書籍なども対象になる)の修復には細かい規制があり、改装などが簡単にできないことも関係しているのかもしれない。入り口も狭く(19世紀仕様だから仕方ないか)、火災などが起こるとどうなるんだろう? というような考えもふと頭をよぎったりする(そしてそういう不安にかられるつくりの劇場はパリにはかなり多い)。ともかく、そんな情緒溢れる(?)場所で見たのが『パリ・シェリー』。

『パリ・シェリー』ファンタジー・レヴュー

「ファンタジー・レヴュー」と銘打たれた『パリ・シェリー』。ファンタジー・レヴューとはなんぞや? ということで、このレヴューの発案者で演出も担当したクリストフ・ミランボー氏 のインタビューから抜粋してみよう。

Christophe Mirambeau ©DR

「19世紀、犯罪通りの劇場が毎年『年末レビュー』を上演しだした頃に、ファンタジー・レヴューというジャンルも生まれました。その年に起こった出来事を、滑稽かつ辛辣なコント、誰もが知っている歌などでパロディ化し、タブロー(幕)と呼ばれるそれらの一つ一つの出し物をつなげて、『レヴューrevue*』にしていったのです。総合タイトルがそのレヴューで扱われている話題を一言で表現すると同時に、レヴューに統一性をもたらしていました。後に、ミュージックホールが出現し、ショーの内容も刺激的なものになっていくと、レヴューも、オペレッタ風、ミュージックホール風、コメディ風、大スペクタクルなど、多様化していきました。『ファンタジー・レヴュー』はレヴューという大きなジャンルの下に位置する小ジャンルで、性格や気分の異なるタブローをいくつもつなげてつくられたショーであることを示しています。」

*フランス語のrevue(ルヴュ)という語は動詞のrevoirから派生した名詞で、動詞には「再会する」「再び見る」「謁見、閲覧する」「再び点検、検討する」などの意味がある。

エロチックだけれどシックでエレガントなシャンソン

5人の歌手兼俳優 ©Paul Herman

『パリ・シェリー』で歌われるシャンソンは、1910年代から50年代に舞台にかかっていた歌だ。その大部分は20年代と30年代の二つの世界大戦間のミュージックホールの全盛期、いわゆる「ベル・エポック」の時代のもの。ジョゼフ・コスマ、ヴァンサン・スコット、コール・ポーター、オスカー・シュトラウス、ラウル・モレッティ、モーリス・イヴァンなど、一世を風靡した作曲家の歌が約30曲。テーマは「アムール」で、ヘテロ、ホモ、レズ、ビセクシュアルと、なんでもござれ。歌詞は示唆的だが、何かをはっきりと言うわけでもなく、コミカルな調子で楽しむことができる。
例えばジャン・ギャバンが歌った(ギャバンは映画俳優になる前に、ミュージックホールで歌っていた時期があった)『レオ、レア、エリー』は、不思議な三角関係を歌ったシャンソンで「レオはレアの持ち物を共有してたけど、エリーもそこに加わって、レアはエリーの持ち物を共有するようになりました。ということで、レオのものはレアのもの、レアのものはエリーのもの、そしてエリーのものはレオのもの」と歌う。三角関係と言うより、三人での生活をほのめかしている。1930年の作曲だが、のちのヌーヴェル・ヴァーグ映画に通じるものがないだろうか。

ピアノを弾きながら指揮をするジャン=イヴ・アジックと司会役のパスカル・ネロン©Paul Herman

1923年、カジノ・ド・パリのレビューで舞台に響いた『手に持った小さな杖』。この歌の前には、司会役が会場から「純粋なパリジャン」(5代以上前からパリに住んでいる人を指すことが多い)を呼び出して、「旦那には3本目の足があるでしょう?」 呼び出された観客が答えに困ったところで「旦那も小さな杖を持ってるでしょう?」 そして歌が始まるのだが、歌詞は(健全な精神の持ち主には)至ってふつう。直前の掛け合いで裏の意味が誰にでもわかるようになっている。

大詰めになって観客も一緒に歌う(歌わされる)「Ah ! Les Cénobites ! (ああ、セノビー人たちよ!)」では、Mesdames, Les Cénobites en repos !(奥方たちよ、セノビー人が休憩している)と陽気に歌うのだが、これは言葉遊びで、フランス語で発音してみると何を言っているか一目瞭然(歌詞はあまりに直接的なので、ここでの訳は避けることにする)。ただ、文字に書かれた歌詞は、完全に別の意味となっていて、検閲があったとしても全く引っかからない。そこらへんはパリのエスプリがピリリときいている。要は過激な下ネタなのだが、こういう「お茶目な」遊び心が、全く品をおとさずに、シャンソンをエレガントでシックなものにしていると言えまいか。

Léovanie Raud ©Paul Herman

新アレンジ

今でも時々、出し物としてこの時代のシャンソンが舞台にかかることがあるが、それはピアノ伴奏で歌を次々と歌うものであることが多い。ミランボー氏は、それを避けて、各時代の最高峰の作曲家や歌手が伝統として伝えてきた「愛の都、パリ」というイメージを、ささやかながらも豪華でシックな舞台として提供したいとずっと思ってきたという。氏は1890年から1950年あたりのフランスの「ショービジネス」界の歴史を知悉しているショーマンで、これまでにも忘れられた作品を舞台にかけてきたが(昨年上演されたモーリス・イヴァンのオペレッタ『イエス!』は秀逸だった)、今回も、ほとんど知られていない曲を中心に、全てを新アレンジするという意気込みようだ。そのアレンジは、弦楽器、管楽器、打楽器、ピアノからなる16人の本格的なオーケストラのために書かれ、ミュージックホールの専門家も絶賛。この手の出し物の伴奏は大抵、先ほど述べたピアノ伴奏のほか、ジャズトリオや数体の楽器のみで済まされることが多いので、その豪華さがわかる。小さな舞台の上手に弦楽器、下手に2段になって管楽器が並び、その前にはピアノが、中間にはドラムとパーカッションが置かれている。これで舞台のほとんどを占領しているが、その合間をうまく縫って歌手を動かせ、時には躍らせる演出も、舞台で効果をつくりあげることを知り尽くしたミランボー氏ならでは。
衣装は赤と黒で統一。男性は簡易スモーキング、女性はドレスだが、100年前の匂いがプンプンするようなものではなく、どの時代にも通用する衣装を選んだ。

トップレベルの歌手・音楽家たち

フランス特有のジャンルであるシャンソンを歌うには、高度な歌唱力だけでなく、歌詞をはっきりと発音し、俳優なみの演技ができることが要求される。『パリ・シェリー』で歌い演奏するミュージシャンは、フリヴォリテ・パリジエンヌLes Frivolités parisiennesとアレポAREPO-Les grands Boulevardsという二つの演奏団体のメンバー。
 Les Frivolités parisiennesは、19世紀、20世紀初めの忘れられたフランスのオペラ・ブッファやオペレッタを現代に蘇らせようとさまざまな試みを行っており、今までに、オペレッタの父エルヴェの『小さなファウストLe Petit Faust』や、前述のイヴァンの『イエス』などを上演、好評を博してきた。主に19世紀に作曲されたイタリアオペラやドイツペラが、20世紀を通して大規模に上演され、その流れにおされて大部分が失われてしまったフランス語唱法(この唱法はオペレッタなどには不可欠だ)の伝統を、歴史的に研究して実践すると同時に、歌唱と演劇を同レベルで、しかも高いレベルでこなせる歌手兼俳優の育成にも積極的に取り組んでいる。
AREPO-Les Grands Boulevardsは1988年に南仏のトゥールーズで音楽学生によって生まれた団体。まずAREPO(Association pour la Redécouverte l’Étude et la Promotion d’Ouvrages lyriques)として、サッシャ・ギトリーやエルネスト・レイエール、ジャコモ・マイヤベーアなどの、やはり忘れられた作品を取り上げていった。2010年からはパリに本拠を移し、かつて劇場がひしめいていた界隈の総称であるLes Grands Boulevards(レ・グラン・ブルヴァール)という名を付け加えて、20世紀の大衆的なオペレッタ、ミュージカル、ミュージックホールのレパートリーを中心に活動している(レ・グラン・ブルヴァールとは、これらのレパートリーをすぐに連想させる名前でもある)。

Charlène Duval ©Paul Herman

歌手兼俳優は、女性2人、男性3人の5人。どちらかというとクラシック系のレオヴァニー・ロー Léovanie Raud は、すっと伸びる高音と、シャンソンにぴったりのセンシュアルな中音域を駆使して、見事に歌い、踊る。典型的なミュージックホール型テノールのアレクシ・メリオー Alexis Mériaux、魅力的に訓練された地声が伸びるバリトンのギヨーム・ボージョレ Guillaume Beaujolais は、二人とも演技も確か。メリオーはクラシックなオペレッタでも活躍している。ボージョレは、それぞれのシャンソンに合わせて、少なからずコンプレックスを持った人物を演じ、目線でものをいうのが最高にうまい。進行役のパスカル・ネロン Pascal Néron は絶妙なアドリブを交えた語りで、観客をショーに巻き込んでいく。そして何と言っても極め付けは、シャルレーヌ・デュヴァル Charlène Duval。ムーラン・ルージュばりの羽根つきコスチュームで現れたり、客席に降りて一人の男性を相手に執拗に(?)歌で口説いたりと、彼女が出てくるたびに強烈な個性が炸裂する。声質は決して洗練されたているとは言えないかもしれないが、1950年代の豪華キャバレーの生き残りのような存在で、圧倒的な存在感には脱帽。
オケのメンバーも、単に伴奏役に収まるのではなく、演出の一部分となっていろいろなシーンを演じているのが、『パリ・シェリー』がシックなショーとなっている一因だろう。
パリ公演は1月14日が最終だが、質と完成度の高さで、おそらくこれからも各地を巡回するに違いない(現在の時点では地方公演の情報はないが)。再演が楽しみだ。

パリ、トレヴィズ劇場、2017年1月3日〜14日
歌と芝居:シャルレーヌ・デュヴァルCharlène Duval、レオヴァニー・ロー Léovanie Raud、ギヨーム・ボージョレ Guillaume Beaujolais、アレクシ・メリオー Alexis Mériaux、パスカル・ネロン Pascal Neyron
オーケストラ:フリヴォル・アンサンブル Frivol’Ensemble
指揮:ジャン=イヴ・エジック Jean-Yves Aizic
新アレンジ:ジャン=イヴ・エジック Jean-Yves Aizic、アントワーヌ・ルフォール Antoine Lefort、マテュー・ミシャール Matthieu Michard、クリストフ・ミランボー Christophe Mirambeau
演出:クリストフ・ミランボー Christophr Mirambeau
振付:カロリーヌ・ロエラン Caroline Roëlands
衣装:ダニエラ・テーレ Daniela Telle
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短縮版《ラ・ボエーム》オペラ・コミック劇場で上演 | Vivace Cantabile 2018-08-16 - 12:44

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