Accueil 仏・欧州音楽事情 オペラ専門サイト フォーラム・オペラの年間「トロフィー」その1

オペラ専門サイト フォーラム・オペラの年間「トロフィー」その1

par Victoria Okada

フランスとフランス語圏のオペラファンに最も読まれているオペラ専門サイト、「フォーラム・オペラ Forum Opéra」。フランス全国は言うに及ばず、ヨーロッパ各地で上演されているオペラの批評を網羅し、時にはヨーロッパ以外のオペラハウスでの公演もレポートしている。レヴューの大多数はプルミエを扱ったもので、翌朝7時には出ている。12月のパリでのある公演はなんと上演後の深夜1時にレヴューが載っていた。恐るべき速さだ。執筆陣はその道の通ばかりで、記事は詳細におよび、良い批評を得ると、歌手たちはもちろん、指揮者やオーケストラ、そして劇場までもこぞってネット上にシェアするという、人気と権威を誇るサイトだ。

「フォーラム・オペラ」は、年末にその年のアーティストなどを分野ごとに選んでいる。それも、100%読者の投票によるセレクションで、得票のパーセンテージも同時に発表される。つまり人気投票でもあるわけだ。メジャーレーベルの影響などを大なり小なり受けている伝統的な雑誌のランキングとは異なる、ファン主体の「本音」を垣間見ることができる。

2019年のベスト・アーティストが今日(202012日)発表された。日本ではほとんど馴染みのない名前や作品もあるかもしれないが、ヨーロッパでは皆実力派として知られた、または上昇中の歌手や、話題をさらった作品ばかり。現在の、主にフランスでのオペラの動向を知る上での興味深い結果となっている。

ラインナップは次の通り(コメントは筆者)。サイトの該当ページはこちら

女声歌手

Pretty Yende © Gregor Hohenberg:Sony Music Entertainment

1位 プリティ・イェンデ Pretty Yende (34,1%)

2位 カリーヌ・デエ Karine Deshayes (28,3%)

3位 ヴァニナ・サントニ Vannina Santoni (14,4%)

4位 ガエル・アルケーズ Gaëlle Arquez (12,1%)

5位 マリナ・レベカ Marina Rebeka (11,1%)

1位のプリティ・イェンデは1985年南アフリカ生まれのソプラノ。スカラ座の声楽アカデミーで学び、2011年にドミンゴ主催のオペラリア・コンクールで優勝。2013年にメトロポリタン・オペラにフアン・ディエコ・フローレスのパートナーとしてデビューして急上昇した。ソニーからアルバムを2枚リリースしている。5位中、2位から4位の3人がフランス人。カリーヌ・デエはコロラトゥーラ・メゾでロッシーニなどが得意。ヴァニナ・サントニは、最近では12月にシャンゼリゼ劇場で、映画監督のジェームズ・グレイが演出して話題になった『フィガロの結婚』で伯爵夫人を歌って喝采を得た。ガエル・アルケーズは、フランスでのバロック音楽の再興のメッカと謳われたサント(夏にバロックを中心とした音楽祭が開かれている)で生まれ、アフリカのコートジボワールで育ったメゾ。5位のマリナ・レベカはリガ生まれのソプラノで、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院で学んでいる。待望のパリ初の単独リサイタルが昨秋行われ、ファンをうならせた。


La Traviata (G. Verdi) – “Un di, felice, eterea” (Pretty Yende & Benjamin Bernheim), Opéra National de Paris

男声歌手

Benjamin Bernheim (recital La Grange au Lac) © Aine Paley

1位 バンジャマン・ベルネイム Benjamin Bernheim (22,9%)

2位 ヤクプ・ヨーゼフ・オルリンスキ Jakub Józef Orliński (22,4%)

3位 スタニスラス・ド・バルべラック Stanislas de Barbeyrac (21,6%)

4位 エティエンヌ・デュピュイ Etienne Dupuis (19,5%)

5位 グレゴリー・クンデ Gregory Kunde (13,5%)

1位のベルネイム(ドイツ風の名前だがフランス人。オフィシャルサイトには「フランス人テノール」と明記されている)はフランスとイタリアのオペラを得意とし、特にフランス・オペラで名声を確立した。2位のオルリンスキは、2017年のエクサンプロヴァンス音楽祭中のラジオ放送で、急遽、ある歌手の代役として、シャツにショートパンツ、ランニングシューズという出で立ちでヴィヴァルディのアリアを歌い、その様子がYouTubeで大ブレークして瞬く間にスターにのし上がったポーランドのカウンターテナー。ブレークダンサーとしても知られている。3位のド・バルべラックはボルドー生まれのテノールで、バリトン寄りの趣ある声が魅力。4位につけたカナダのバリトン、デュピュイは、フランスのオペラ劇場での出演度が高くファンも多い。5位のアメリカのクンデ(1954年生まれ)もフランスものとイタリアものを得意としている。フランス語圏のオペラファンが今一番注目しているのは、一筋縄ではいかないフランス・オペラを、誰がどのようにこなしているか、ということなのかもしれない。それが歌手部門を始め、指揮者部門、新演出部門、書籍部門の今年のランキングによく表れているように思われる。


Vivaldi : il Giustino, “Vedro con mio diletto” par Jakub Józef Orliński (contre-ténor), Festival Aix-en-Provence


若手ホープ(男女混合)

Enguerrand-de-Hys © Festival de Rocamadour

1位 アンゲラン・ド・イス Enguerrand de Hys (23,9%)

2位 エヴァ・ザイチック Eva Zaïcik (23,3%)

3位 リーズ・ダーヴィッドセン Lise Davidsen (20,9%)

4位 ナフエル・ディ・ピエロ Nahuel di Pierro (18,3%)

5位 レイヌー・ファン・メヘレン Reinoud van Mechelen (13,7%)

こちらもフランスものを見事に歌う歌手が勢揃いした。アンゲラン・ド・イスはバロックから現代まで多様なレパートリーをどれも素晴らしい出来で披露する。エヴァ・ザイチックは、ノートルダム大聖堂の聖歌隊とジャルダン・デ・ヴォワ(レ・ザール・フロリサンの若手養成アカデミー)出身のメゾ・ソプラノ。2016年のエリザベート王妃国際コンクールで2位を受賞している。ドラマチック・ソプラノのリーズ・ダーヴィッドセンは最近デッカからシュトラウスの「最後の4つの歌」とワグナーのアリアを集めたソロアルバムがリリースされ、一気に人気が上昇した。ナフエル・ディ・ピエロはブエノス・アイレス生まれのバス。昨12月のオペラ・コミック劇場での『恋するヘラクレス』ではヘラクレス役で大喝采を得た。レイヌー・ファン・メヘレンはベルギーのテノールで、バロックを中心に活動し、「ア・ノクテ・タンポリス A Nocte Temporis 」という独自のアンサンブルでもフランス語による古楽レパートリーを探求している。レコーディング数はすでに膨大で、様々なアンサンブルと共演している。


Enguerrand de Hys, Révélation Classique de l’Adami 2014 – J. Offenbach : La Fille du Tambour Major

 


A Nocte Temporis / Reinoud van Mechelen – Dumesny, Sommeil Desmarest

 

指揮者(男女混合)

Leonardo Garcia Alarcon © Aline Paley

1位 レオナルド・ガルシア・アラルコン Leonardo García Alarcón (34,3%)

2位 エマニュエル・アイム Emmanuelle Haïm (22,4%)

3位 フランソワ=グザヴィエ・ロト François-Xavier Roth (20,8%)

4位 ダニエル・ハーディング Daniel Harding (11,5%)

5位 スザンナ・マルッキ Susanna Mälkki (11,1%)

5人中、女性が2人入っている。アイムはバロック分野ですでに広く認められた指揮者で、自ら創設したアンサンブル「ル・コンセール・ダストレ Le Concert d’Astrée」を率いて欧米で精力的な活動を繰り広げている。マルッキは2005年から2012年までアンサンブル・アンテルコンタンポランの芸術監督だったので、フランスではとくに知名度が高い。明快な指揮で納得の演奏を聞かせる。ロトは日本にもファンが多い。手勢のオーケストラ「レ・シエクル Les Siècles 」とともに各時代ごとに時代考証を踏まえた演奏を定着させ(ロマン派、後期ロマン派のオケ作品のペリオド演奏の草分け)ただけでなく、ケルン市の総合音楽監督、ロンドン交響楽団首席客員指揮者としても手腕を発揮している。昨年秋には、バロック音楽興隆のパイオニア、ジャン=クロード・マルゴワールの逝去後、彼が創設したフランス北部トゥルコワン市のアトリエ・リリック(若手奏者を実際の演奏・上演をとおして養成するアカデミー)の後任音楽監督に任命された。1位のアラルコンはアルゼンチン生まれの指揮者でフランスを拠点に活躍している。妻のソプラノ歌手マリアナ・フロレスもソリストとしてメンバーに名を連ねている古楽アンサンブル「カペラ・メディテラネア Cappella Mediterranea 」を指揮。2010年にフランスのアンブロネー音楽祭で3世紀の間忘れられていたフルヴェッキの « Il diluvio universale » を発掘演奏して話題となり、一躍バロック界の寵児に躍り出た俊英。ちなみに同作品は現在でも欧州各地で再演され続けている。4位につけたハーディングはパリ管の常任指揮者の任を退き、兼ねてから情熱を燃やしていたパイロットとしてエール・フランスに再就職した(報道では1年間に限定の予定)。


Haendel Rodelinda “Io t’abbraccio” Jeanine de Bique & Tim Mead, Emmanuelle Haïm, Le Concert d’Astrée, Opéra national de Lille

新演出オペラ

Jodie Devos (Amour/Zaire), Les Indes galantes (J-P. Rameau) © Little Shao / Opera national de Paris

1位 インドの高雅な国々(ラモー)、パリ・オペラ座 Les Indes galantes, Opéra de Paris (48,8%)

2位 レ・ボレアド(ラモー)、ディジョン・オペラ座 Les Boréades, Dijon (14,9%)

3位同位 アルチナ(ヘンデル)、ザルツブルグ音楽祭 Alcina, Salzbourg (12,3%)

3位同位 洪水(フィリデイ)、パリ、オペラ・コミック劇場 L’Inondation, Opéra Comique (12,3%)

5位 魔弾の射手(ウェーバー)、シャンゼリゼ劇場 Der Freischütz, TCE (11,6%)

バロックが3曲も入っているのはこの時代のオペラが広く定着していることの表れかもしれない。入賞の3作品はどれも演出の斬新さで話題となった。1位のラモーは、指揮者部門でやはり1位を得たアラルコンによる指揮。歌手陣は、サビーヌ・ドヴィエル、ジョディ・ドヴォス、ジュリー・フックス、スタニスラス・ド・バルべラック、アレクサンドル・デュアメル、フロリアン・サンペ、マティアス・ヴィダル等、フランス語を歌わせれば最高というキャストが勢ぞろいした豪華な舞台だった。3位同位の『洪水 L’inondation 』はオペラ・コミック劇場の委嘱でイタリアの作曲家フランチェスコ・フィリデイと演出のジョエル・ポムラが二人三脚で作り上げた世界初演作品。9月と10月にたった4回だけ上演されたが、社会を取り上げたヒッチコック風サスペンスドラマのオペラとして初演前から前評判が高く、大成功を納めた。1位と5位は賛否両論、評価がまさに真っ二つに別れた現代的演出。これらが上位に入っているのは非常に面白い。フォーラム・オペラの読者は開かれた精神の持ち主だという証しだろうか。


Les Indes galantes (J-P. Rameau) : Forêts paisibles (Sabine Devieilhe & Florian Sempey), Leonardo García Alarcòn, Cappella Mediterranea

 


Innondation – Opéra Comique

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