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フランス期待の新星が奏でるブラームス、シューマン チェロ作品集

par Victoria Okada

*2016年9月にMixiに投稿した記事に加筆したものです。

フランスでは21世紀に入ってから非常に優秀な若手が続々と出て、とどまるところを知らないほどだが、ブリュノ・フィリップ Bruno Philippeタンギー・ド・ヴィリヤンクール Tanguy de Williancourt はその中でも注目株だ。

チェロのブリュノ・フィリップは1993年、スペイン国境にほど近いペルピニャン生まれ。地元で勉強した後、2008年からパリで学んでいる。まずパリ地方音楽院でラファエル・ピドゥー Raphaël Pidoux(世界最高峰のチェロ教授、フィリップ・ミュレール Philippe Muller がパリ高等国立音楽院を引退した後、後任として同職についている)に、2009年からはパリ高等国立音楽院でジェローム・ペルノー Jérôme Pernoo に師事。2011年にはアンドレ・ナヴァーラ国際チェロコンクールで3位入賞、最優秀リサイタル賞も同時に受賞。2014年には権威あるドイツのARD国際コンクールでやはり3位に入賞している。(追記 2021年1月 2015年のチャイコフスキーコンクールでは第二予選まで進み、2017年のエリザベート王妃国際音楽コンクールの第1回チェロ部門ではファイナリストとして入賞している)すでに、ヴェルビエ、プラード(パブロ・カザルス)、ナントのフォル・ジュルネ、ラ・ロック・ダンテロンなどの大音楽祭を筆頭に、数々の国際舞台で活躍している。

ピアノのタンギー・ド・ヴィリヤンクールは音楽一家の出身で、ロジェ・ミュラーロ Roger Muraro、ジャン=フレデリック・ヌビュルジェ Jean-Frédéric Neuburger、クレール・デゼール Claire Désert に師事。パリ高等国立音楽院では審査員満場一致でマスターを取得したあと、演奏家アーティストのディプロマを得ている。並行して、指揮法と、著名な伴奏ピアニスト、アンヌ・ル・ボゼック Anne Le Bozec とジェフ・コーエン Jeff Cohen のもとでドイツ・フランス歌曲(伴奏)も学んでいる。2008年にはヤマハ・コンクール、2013年にはフォーレ・コンクールで賞をとっているほか、いくつもの財団から選ばれて支援を受けており、パリを中心にベルリン、ロンドン、京都など、国際的に飛躍し始めている。

二人ともコンサートを何度か個別に聞いているが、その個性と音楽性には目を見張るものがある。フィリップの方は、時折音程が微妙に動いたり、音楽のつくり方、とくにテンションのもっていき方に弱さが見られることもあるが、コンサートの場数を踏むことで解消するだろう。ヴィイヤンクールは広いレパートリーを持ち、弾く楽曲に応じて色彩をはっきりと変えることができる上、シンフォニックな演奏が得意で、ピアノという単一の楽器を超えた大きな可能性を表現できるピアニストだ。

そんな二人がコンビを組んで初めてリリースしたこのCD。それぞれにとっても初録音となった。初めての録音にブラームスのソナタとは音楽的には渋い選択だろう。と同時に、演奏家としては大胆な行為といえる。というのは、ここに収録されている3曲はどれも有名な曲なので、おのずと聴く方の判断も厳しくなるからだ。

チェロソナタ第1(1862年〜65年作曲)では第1楽章を深い叙情味を持って聞かせたあと(最後の音が深く染み入るようで見事)、第二楽章は心持ちテンポが後手に回るような印象を受ける。トリオの後は、拍子にとらわれている(拍子をとりながら演奏している)感も少なからずある。「クワジ・メヌエット」という記述を意識している(しすぎている?)からかもしれない。第3楽章も、はじめは拍子とりの印象が拭いきれない。慎重に過ぎるのだろうか? ただ楽章が進むにつれて熱が入り、聴く方もそれに引き込まれてゆく。演奏自体は、全体的に叙情性に満ち、ニュアンスも豊富。最終楽章の深刻さもよく出ているので、音楽が全曲を通してさらに自然に流れれば、全く素晴らしい演奏になることは間違いない。

シューマンの幻想小曲集は3曲からなり、1849年にもともとクラリネットのために作曲された。ヴァイオリンやヴィオラでも演奏される。イ短調、イ長調、イ長調と、調性的にはあまり変化はないが、各曲の性格は非常に異なっている。というより、楽譜には続けて演奏するようにという指示があるので、1曲が異なった3つの部分に分かれていると考えたほうがよいかもしれない。いずれにせよ物語性を持ったロマン的性格に貫かれた作品。

フィリップの演奏はそのロマン性を体現したようなもので、丁寧なフレーズの扱いに好感が持てる。弦の特徴をよく生かしてそれぞれの音がなめらかにつながっている。思わぬところでふと力を抜いて聴く者を納得させる、または考えさせるのは、彼らの音楽性を物語っている。

ブラームスに戻ってチェロソナタ第2(1886年作曲)。チェロにもピアノにも高度な技巧が要求される大規模な曲である。第1番に比べてピアノの比重が格段に大きくなっており、ヴィイヤンクールはチェロを全面に出しつつ、しっかりと主張している。それは第1楽章で顕著。第2楽章「アダージョ」は二つの楽器が密接かつ見事に調和しており、個人的にはこのCDの真骨頂。一つ難を言わせて貰えば、Pizzでチェロがもっと聞こえればよかった。続く第3楽章も逸品。チェロのメロディの歌わせ方といい、ピアノによる音楽的なバランスやチェロとの掛け合いといい、楽譜をよく読み込んで熟考しているのがうかがえるが、かといってわざとらしさが全くないのがいい。第4楽章は優雅さと重厚さがうまく溶け合っている。アゴーギクもディナーミクも巧緻で、納得させられる。

録音は至近距離で行われているのか、それとも編集の段階でわざと残しているのか、ところどころでチェリストの息遣いがはっきりと聞こえてくる。ピアノは全体的にどちらかというと硬めの音になっていて、それがチェロの音色を食う(消すのではなく)ように聞こえる場所がいくつかある。これはピアノの状態が問題なのではなく、録音のコンディションによるものであろう。もう少し柔らかな音になるように工夫すれば、チェロの音色にさらにマッチするように思われる。

デビューCDというにはあまりにも成熟した演奏。ぜひ手元に置いておきたい一枚だ。

2021年1月追記 その後二人ともそれぞれ数枚のCDをリリースし、どれも好評を博している。ヴィリアンクールは2019年にリリースしたドビュッシー後期作品集が、BBCミュージックマガジンとグラモフォンアワードで受賞している。

ヨハネス・ブラームス(1833-1897) チェロとピアノのためのソナタ 第1番 ホ短調 作品38
ロベルト・シューマン(1810-1856) 幻想小曲集 作品73(チェロ・ピアノ版)
ヨハネス・ブラームス(1833-1897) チェロとピアノのためのソナタ 第2番 へ長調 作品99

ブリュノ・フィリップ (vc)
タンギー・ド・ヴィリアンクール (p)

録音データ
Evidence classics, EVCD012
録音日:2014年9月26-28日
録音場所:パリ国立高等音楽院エスパス・フルレ

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