(雑誌「ふらんす」2020年2月号の記事を大幅に書き換えたものです)
年金改革に反対して昨年(2019年)12月5日からストライキが続けられているフランスで、1月11日、バスティーユ・オペラ座で予定されていたロッシーニ『セヴィリアの理髪師』のプルミエ公演が中止となったことが、当日の朝に発表された。プレス担当官の責任者が、この日の公演を鑑賞する予定だったジャーナリストや批評家などに宛てて、10時すぎにメールで知らせた。公演中止は同日午後、一般の聴衆にもメディアなどを通して伝えられた。
同9日、音楽雑誌『ディアパゾン』ウェブ版が、オペラ座は重なる公演中止によってすでに1230万ユーロ(約1億500万円)以上の損失という試算を出したと報道したばかり。
2019年12月17日にはオペラ座合唱団が、24日にはバレエ団の女性ダンサーが、さらに31日にはオーケストラ団員がバスティーユ・オペラ座やガルニエ宮の前で演奏やパフォーマンスを行い、政府の新年金案に抗議。政府は、これまで細かく別れていた特別枠の年金制度(例えばオペラ座バレエ団のダンサーは42歳で定年)を、職業、重労働の度合いなどを全く区別せずに一律64歳にひきあげる案をメインとして提出しており、ストやデモ参加者の多くは、これまでの特別枠を守ろうとして抗議している。
ストライキが始まって以来、オペラ座はほとんど全ての公演を中止しているが、中止の決定が公演予定開始時間のたった2時間前であったり、中止の連絡が徹底されていなかったりと、これまでに聴衆からも多くの批判を受けていた。
1月11日から2月12日まで予定されている『セヴィリアの理髪師』は、アメリカのソプラノ歌手、リゼット・オロペサ Lisette Oropesa が初めてロジーナ役に挑戦するということで注目されていた。彼女は2015年にバスティーユで『後宮からの誘拐』のコンスタンツェと『リゴレット』のジルダを歌い、とくにジルダ役での成功により世界各地のオペラ劇場からオファーが相次ぎ、現在若手の有望株として非常に期待されている。
Photo Opéra Bastille en grève © Martin Bureau-AFP