(2018年6月12日に他サイトに投稿した記事に加筆・訂正したものです) 6月8日金曜日 開幕コンサートと「ザ・ボーイズ」プログラム フランス北部の中心都市リール。かつては炭鉱で栄えたが(近郊にあるボタ山とその周辺がユネスコの文化遺産に登録されている)、現在はパリとブリュッセル、アムステルダムをつなぐ一大文化都市として発展を遂げている。 このリールには、リール国立管弦楽団 Orchestre national de Lille がある。指揮者のジャン=クロード・カサドシュ氏 Jean-Claude Casadesus が40余年前にマンネリ化が激しかった小オーケストラを受け継ぎ、地方内の至るところに出向いてゆく地域密着型オケとして立て直し、「国立」にのし上げたオケだ。至るところというのは、町、村から小村までという地理的な意味だけではない。学校、病院、刑務所をはじめ、公民館、サーカス、体育館、集会所、教会など、当時はクラシック音楽の演奏会場として全く想像もできなかった場所をまさに「どさ回り」し地域全体を歩き潰して聴衆を獲得したのだ。そうやって活動を開始して数年間で定期会員の定着率がフランス国内で1・2位を争う驚異の団体に成長。学校コンサートで子供がクラシック音楽に興味を持ち、親を演奏会に連れ出して、一緒に定期会員になるというケースも多々見られ、クラシックを普及させることに大きく貢献している。 ジャン=クロード・カサドシュ氏は、日本でも根強いファンが多いロベール・カサドシュ Robert Casadesus (1899-1972) を輩出した家系に生まれた。母親のジゼル Gisèle さんは実力派女優として100歳を超えても舞台にたち(昨年2017年に享年103歳で亡くなった)、娘のカロリーヌ Caroline Casadesusさんはメゾソプラノ歌手、その息子であるダヴィッド・エンコ David Enhco、トマ・エンコ Thomas Enhco 両氏は、ジャズトランペッター、ジャズピアニストとして世界に名を馳せている。一族には、今年2月に急死したジャズヴァイオリンのディディエ・ロックウッド Didier Lockwood や、ハリウッド俳優オーランド・ブルーム Orlando Bloom などもおり、ジャン=クロードさんは数代続く芸術家一族の現在の棟梁とも言える存在だ。 (ジャン=クロードさんは自伝的な本を2冊書いており、地方活性化秘話や、家族・音楽家たちの裏話など色々盛りだくさんで面白い。翻訳のプロジェクトを複数の出版社に打診したが、今のところ出版元が見つからず計画は止まっている。どなたか出版にたどりつける可能性をお持ちの方、アイデア大歓迎です。) さて、リール・ピアノ・フェスティヴァル Lille Piano(s) Festival はそのジャン=クロードさんが立ち上げた音楽祭で、リール国立管弦楽団の本拠地であるル・ヌーヴォー・シエークル Le Nouveau…
リール国立管弦楽団
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毎年6月の第二週末にフランス北部の中心都市リール Lille で開催されているリール・ピアノフェスティヴァル Lille Piano[s] Festival。新型コロナウィルスのため当地での開催が不可能となり、100%デジタル版の音楽祭を YouTube で配信することになった。 6月12日金曜日19時から14日日曜日22時まで、20ほどのコンサートがプログラムに上がっている。 ベートーヴェン生誕250年の今年はやはりベートーヴェンが中心だが、金曜日20時30分からのオープニングコンサートは、オール・ブラームスプログラム。演奏は昨年のチャイコフスキーコンクールで優勝したアレクサンドル・カントロフ Alexandre Kantorow。23歳になったばかりだがその成熟した音楽性は巨匠の演奏にも全く引けをとらない。 音楽祭はクラシックとジャズが大きな2本の柱だが、子供も交えて家族で聴けるコンサートや、ジャンル不問のコンサートもあり、さらにトークや解説を通して聴衆とのコミュニケーションも忘れない。 曜日ごとにプログラムを見てみよう。 オープニングコンサートに先立って、前座的に二つのコンサートが組まれている。まず19時にジャズの Xavi Torres Trio がアメリカから40分間、ベートーヴェンの有名なソナタをモチーフに自在に音楽を展開する。次に20時からトランペットのリュシエンヌ・ルノーダン=ヴァリー Lucienne Renaudin-Vary がアコーデオンのフェリシアン・ブリュ Félicien Brut と共演。 リュシエンヌは1999年生まれで、10代前半から演奏活動をはじめ、2016年にはヴィクトワール・ド・ラ・ミュージック賞の新人賞を受賞している。ワーナークラシックスからすでにアルバム(それぞれリール国立管弦楽団、BBC管弦楽団との共演)を2枚出している期待の若手。20時30分からのカントロフのリサイタルはブラームスのバラードop.10 とソナタ第3番へ短調op.5。そのあと21時30分から30分間、ジャン=フランソワ・ジジェル Jean-François Zygel がベートヴェンによる即興を行う。ジジェルはジャズとクラシックの間を行き来しつつ、クラシック音楽普及活動と呼べる演奏会やテレビ番組を多く手がけており、フランスの音楽愛好家にはおなじみの顔だ。彼は三夜続けて即興を行う(土曜日20時、日曜日18時30分)。金曜日最後のコンサートはジャズで、22時からエリック・トリュファーズ Erik Truffaz のトランペットと、ピアニストで作曲家のエストレイラ・ベッソン Estreilla Besson。22時50分からはリール国立管弦楽団 Orchestre national de Lille(リールピアノフェスティヴァルの主催機関)の音楽監督で指揮者のアレクサンドル・ブロック Alexandre…