本拠地のパリ・フィルハーモニーホールからビデオでコンサートを配信し続けるパリ管弦楽団 Orchestre de Paris に、2月11日、エサ=ペッカ・サロネン Esa Pekka Salonen が登場。フィンランド出身の彼が同じフィンランドのシベリウスの音楽だけで構成されたプログラムを指揮。コンサートの模様は Philharmonie Live とMedici.TV で配信され、リプライで視聴できる。 まずは『ペレアスとメリザンド』から「メリザンドの死」。指揮棒を持たずに、まるで音を優しく包み込むかのようにオーケストラを操る。ゆったりと流れるメロディはシンプルながら繊細な情緒にあふれているが、そこには死から連想される悲愴感はない。逆に、美し弦の音色がしみじみと思い出に浸るような感情をわきたたせる。 最後の音を柔らかに閉じるや、休みなく交響曲第6番ニ短調作品104に移る。曲のはじめは指揮棒なしだったが、いつの間にか指揮棒を手にしている。導入部は確かに「メリザンドの死」の延長にあるような和音が続くので、曲を知らないと同じ曲が続いていると錯覚してしまう。サロネンの音の作り方も、楽譜が進むにつれて生まれる動きに生き生きとした効果を持たせ、地面から芽が出るようなイメージを彷彿させる。伝統的な4楽章構成ながら、それぞれの楽章は全く自由な形式で、単なる音階や音型を幾重にも変奏させて展開するこの不思議な音楽を、サロネンは持ち前の精巧な指揮でカレイドスコープのように綴ってゆく。ここでも腕にたくさんの音符を抱きかかえるように、そしてそれを手品師のように自在に操る様子は、それ自体が音楽と言えるほど表情にあふれている。そして指揮によく応えるパリ管。サロネンは、自国の代表作曲家の作品を知り尽くしていることもあろうが、作品の持つ魅力を最大限に引き出していると感じられる演奏だ。シベリウスに馴染みのない指揮者ならば全く違う音楽をつくっていたであろうことは想像に難くない。しかし、そんなことは全く抜きにしても、フィルハーモニーのブーレーズ大ホールで行われた収録に立ち会った関係者は皆、サロネンが醸し出す音色の美しさに一瞬で魅了された。パリ管特有の、まろやかさな弦と、絢爛とまろみを兼ね備えた管楽器群の調和も見事だ。ある意味でフランス音楽の音色に近い。『ペレアスとメリザンド』というテーマも然り(作曲は1905年で、フォーレの劇音楽から7年後、ドビュッシーのオペラから3年後である)。それは配信のビデオでも感じられると思う。 さて、第2部は交響曲第7番作品105。先の第6番から1年後に作曲され、調性はハ短調。よりドラマ性があり、音の層も厚い。1楽章構成でプログラムのない交響詩のような様相をもつが、サロネンはそれぞれのクライマックスに至る盛り上がりや、緩徐部に秘めた隠れたエネルギーを表面化させることに秀で、ここでも魔術師さながらに音色を意のままに構築していく。なんという至福の響き! このコンサートを実際にホールで聴けたことに感謝。
パリ管弦楽団
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2021年9月からパリ管弦楽団 Orchestre de Paris の音楽監督に就任することが決まっているクラウス・マケラ Klaus Mäkelä。1996年フィンランド生まれでもともとチェリストの彼は、その豊かな才能ですでにパリの音楽愛好家のお気に入りとなっている。 1月20日の無観客演奏会*では、パリ管にデビューの予定だったリュドヴィック・モルロ Ludovic Morlot(シアトル交響楽団の名誉指揮者、中華青少年交響楽団の創立メンバーで音楽監督、BBCフィルハーモニックのアソシエイト・アーティスト)がアメリカから渡航できなくなり、マケラが代役で登場した。 成熟したマケラの指揮 マケラの指揮は、丹念な構築力とその場での即興性がよくマッチしており、毎回コンサート終了後の後味が非常にいい。この日のプログラムは「ブーレーズ音楽祭」の一環で、ブーレーズの曲が2曲入っている。もともと組まれていたドビュッシーの『沈める寺』をメシアンの『忘れられた捧げもの』に変更して行われた。プレス用に変更の通知を受け取ったのが1月15日、コンサートの5日前だった。短い準備期間でこれだけ素晴らしい出来にまで仕上げたことは、オケとの相性の良さを物語って余りある。 最初の金管7重奏のためのブーレーズの『イニシアル Initiale 』は、傑出したパリ管の金管セクションの力量が存分に発揮された演奏だった。 パリ管は最近音色がよりふくよかになったと感じるが、無観客の空のホールで聴くのと何か関係があるのだろうか。『忘れられた捧げもの』では、細やかな絹のような弦の音色が傑出した音のテクスチュアを作り出し、メシアン独特の和声を、撫でるように、かつ深い思いに浸るように進めていく。管楽器と打楽器が入る「罪」と題された中間部では、さまざまな音色が火花のように炸裂する。そのコントラストは全く見事だ。最後の部分ではメシアン作品の全体を貫く「祈り」が伝わってくる好演だ。 *フランスは劇場やコンサートホールは閉鎖されているが、テレビやインターネットでの放映やラジオ番組などは行うことができる。パリ管は、通常、同一プログラムの演奏会を水曜日と木曜日に2回行うところを、ライブ中継で1回だけ行なっている(リプレイあり)。コンサートは通常17時または18時から行われ、配信は20時30分からとなっている。曲目によって必要な舞台配置変更の時間などを短縮する以外は、収録したものに手を入れずにそのまま配信している。