(2017年2月2日 Mixi に掲載した記事に一部加筆・訂正しました。) フランス版グラミー賞と言われる「ヴィクトワール・ド・ラ・ミュージック」賞。1985年にヴァリエテ(ポップ・ロック・シャンソンなどの総称)の賞として創設されたが、1995年からクラシックとジャズを対象に「クラシック」部門がつくられ、2002年からはさらにジャズ部門が独立して、現在3部門からなっている。 2月1日、全部門の先頭を切って、クラシック部門の受賞式がパリのラジオ・フランスのオーディトリアム(大ホール)で行われた。式典ショーは、毎年2月はじめに、全国各地のクラシックホールを持ち回りで行われ、テレビのFrance3(フランス・トロワ)局で夜9時前から真夜中まで生中継される。クラシック音楽が、俗にいう「プライム・タイム」で放映されるのは非常にまれなことで、この番組を通して年に一度だけクラシックに触れるという人も少なくない。だからと言おうか、舞台の設定は派手な色の照明を使ったショービジネス風の大掛かりなもので、固定位置からの撮影ではなく、カメラが常に舞台の上下左右をぐるぐると廻っている。コンサートなどで自分の席からじっと舞台を見つめながら聞くことに慣れているクラシックファンには、視点が定まらないことで音楽に聴き入ることができないという焦燥感に陥る。司会も毎年、クラシック専門ラジオ「フランス・ミュージック」のプレゼンテーター(この人はもともと有名なチェリストで、楽器を弾かなくなってからラジオで音楽番組を担当したり、コンサート、コンクールやクラシックのイベントなどの司会をしていて、20年来の「ヴィクトワール」の顔)に加え、音楽以外でテレビやラジオの文化番組の司会などをしている、ある程度知名度の高い人物を起用する。 派手な舞台設定、ありきたりなコメント、テレビ中継の音源の悪さ、音と画像のずれなど、あり余るツッコミどころに愛想を尽かして、見ないという人も多い。実際、クラシックの普及にはこういう形を取る必要があるのか否かという議論は絶えないし、メジャーのレコード会社の影響が強すぎるという意見も多い(ちなみに、音楽家もファンも、30代以下の若手はあまりそういうことは気にしないようだが、世代が上になるにつれ、かなり批判的な意見が多くなる)。かく言う私も無視派の一人だったが、今年は知り合いのアーティストが大勢ノミネートされたり招待演奏したりということで、あるコンサートを終えて夜9時過ぎに帰宅したあとは、テレビにかじりついて、同業者の某友人とチャットしながら、ツイートとフェイスブックにコメントを残すという一夜を過ごした。招待演奏には、今話題の15歳のヴァイオリニスト、ダニエル・ロザコヴィッチや、カナダのメゾ、マリー=ニコル・ルミユー、オルガンのトマ・オスピタル、つい数日前にクラシックのソロ演奏家として初めてエッフェル塔でコンサートを行ったギタリストのティボー・コーヴァンが出演し色を添えたのに加え、なんとテノールのヨナス・カウフマンが直前になって出演を発表し、視聴率アップに一役買った。 器楽部門で今回初めてパーカッションとしてマリンバが受賞したのは評価できるが、声楽部門に全く男声がいなかったことや、作曲部門で毎年ほとんど同じ顔ぶれが並ぶなど、疑問に残る点は多い。受賞者リストとノミネートリストは以下の通り。生中継された演奏の様子(招待演奏も含む)はここ。 ♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪ 受賞者 ・器楽ソリスト部門 アダム・ラルーム(ピアノ) ・声楽アーティスト部門 マリアンヌ・クレバサ(メゾソプラノ) ・「新星」器楽部門 アデライード・フェリエール(マリンバ) ・「新星」声楽部門 レア・デザンドレ(メゾソプラノ) ・作曲部門 ティエリー・エスケシュ「オラトリオ『叫び』」 ・録音部門 ユーグ・デュフール ♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪ ノミネートリスト ・器楽ソリスト部門 アダム・ラルーム(ピアノ)、リュカ・ドバルグ(ピアノ)、パスカル・ガロワ(バスーン) ・声楽アーティスト部門 マリアンヌ・クレバサ(メゾソプラノ)、ステファニー・ドゥストラック(メゾソプラノ)、パトリシア・プティボン(ソプラノ) ・「新星」器楽部門 アデライード・フェリエール(マリンバ)、ジュスタン・テイロール*(クラヴサン)、ギヨーム・ベロム(ピアノ) *名前はフランス語読み。アメリカ系フランス人で、英語読みだとジャスティン・テイラー。 ・「新星」声楽部門 レア・デザンドレ(メゾソプラノ)、ラケル・カマリーナ(ソプラノ)、カトリーヌ・トロットマン(メゾソプラノ) ・作曲部門 ティエリー・エスケシュ「オラトリオ『叫び』」、ブリュノ・マントヴァニ「弦楽四重奏曲第3番」、マルティン・マタロン「ヴェンチェスランの影」(オペラ) ・録音部門 ルノー・キャプソン(コンチェルト集)エラート、ユーグ・デュフール作品(演奏:ストラスブール打楽器団)、モンテヴェルディ(演奏:アラルコン指揮カペラ・メディテラネア)アルファ ♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪
マリアンヌ・クレバサ
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今年3月から2ヶ月間、新コロナウィルスの拡大によってフランスでも都市閉鎖が実行された。それによって窮状に陥ることを憂えたクラシックの歌手たちが3月15日に公開状を発表。ドイツなどの政府が文化セクターに巨額の援助金を投入していたのに対して、フランス政府の対応が遅れていたことを警告し、公的にさらなる支援を要求することなどが目的だった。そこには、ロベルト・アラーニャ、ステファン・ドゥグー、バンジャマン・ベルナイム、カリーヌ・デエ、レア・デザンドレ、サビーヌ・ドヴィエル、パトリシア・プティボン、リュドヴィク・テジエ、マリアンヌ・クレバサなどが名を連ねていた。その延長線として、歌手たちの相互援助を目的として UNiSSON というアソシエーションが4月に結成。 メンバーは全て、オペラ、ミュージカル、歌曲など、いわゆるクラシックベースの「声楽」をフランスで職業とする人たちからなっており、経済的にもっとも困難な状況にある同僚を援助するとともに、パワハラ、モラハラ、セクハラなどの被害にあっているメンバーを支えていこうという意図もある。 そのUNiSSONが10月17日にオペラ・コミック劇場で初のコンサートを開催した。直前の14日にマクロン大統領が夜9時から翌朝6時までの外出禁止を発表。開催が危ぶまれたが、20時の開始時間を17時に繰り上げて予定通り行われた。コンサートの様子は10月31日に国営ラジオ局France Musiqueで放送され、その後もリプレイで聴くことができる。 Chères adhérentes, chers adhérents, Nos voix résonnent et résonneront toujours. Samedi 31 oct à 20h sur @francemusique, partenaire du concert solidaire @UNiSSON_asso https://t.co/ucVd1KQwtT@MinistereCC #retransmission #concertsolidaire @Opera_Comique pic.twitter.com/c8RBMEjm4o — UNiSSON (@UNiSSON_asso) October 30, 2020 選曲とキャスティングの妙…