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短縮版《ラ・ボエーム》オペラ・コミック劇場で上演

par Victoria Okada

フランスでは数年前からオペラを短縮して上演する動きが活発化している。上演時間は1時間あまりで、子供も含め家族で楽しめる上演形態として徐々に定着しつつある。昨シーズンは例えば20181月にシャンゼリゼ劇場でロッシーニの《セヴィリアの理髪師》が《Un Barbierある理髪師》というタイトルで舞台にかかった。今シーズンは来年20195月にやはりシャンゼリゼ劇場が《Une Carmen, étoile de cirque(サーカスの星カルメン)》と銘打って、1時間15分の上演を予定している。これらのオペラは、メインストーリーは残しながら副次的なものを思い切って取り払い、演目によっては聴衆もコーラスなどに参加できる(上演前に練習できるようになっている)。オペラを堅苦しいものではなく、積極的に楽しめるものにしようというのが狙いだ。

© Pierre Grosbois

Bohème, notre jeunesse ボエーム・私たちの青春》

さて、オペラ・コミック劇場 Opéra Comique では、7911131517日に、Bohème, notre jeunesse ボエーム・私たちの青春》と題した《ラ・ボエーム》の縮小版を上演した。作曲家のマルク=オリヴィエ・デュパン Marc-Olivier Dupin が、ストーリーの核をなすアリアはそのまま残し、8人の歌手と、13人の縮小オーケストラのために編曲した。楽器編成は、弦楽四重奏、フルート、オーボエ、クラリネット、バスーン、ハープ、アコーデオン、キーボード、打楽器群。たった13人と思うなかれ。オリジナル版にも勝るとも劣らない、さまざまな音色を生かした素晴らしい編曲で、アコーデオンもしっくりと溶け込んでいる。演奏は、19世紀半ばから20世紀前半にかけてのフランスの「軽い」オペラ、オペレッタなどを専門にしているレ・フリヴォリテ・パリジエンヌ Les Frivolités Parisiennes(このアンサンブルについての詳細はこちら)。指揮はアレクサンドラ・クラヴェロ Alexandra Cravero。少人数のアンサンブルにオーケストラの深みを与えているのは、編曲のうまさに加えて、彼女の指揮に負うところが大きい。指示が非常に明瞭で、それぞれの楽器の特性をよく引き出している。歌手への指示にもブレがなく、おそらく安心して歌えたに違いない。クラヴェロはリヨン国立高等音楽院でヴィオラの一等賞を得た後、パリ国立高等音楽院で指揮を学び、ブザンソンなどの国際指揮者コンクールでいずれもファイナルに残っている。ピエール・ブーレーズ、クルト・マズーアなどのアシスタントを務め、モンテカルロ、ソフィア(ブルガリア)、ブリュッセル・モネ劇場、パリ・シャトレ劇場、モナコ・オペラ座などで振っている。

© Pierre Grosbois

女性による制作チーム

このオペラの特徴は、編曲のマルク=オリヴィエ・デュパンと照明のブリュノ・ブリナスを除くと、制作・芸術チームが全て女性であるということだ。指揮者のアレクサンドラ・クラヴェロをはじめ、そのメンバーは、演出のポーリーヌ・ビュロー、舞台芸術のエマニュエル・ロワ、衣装のアリス・トゥーヴェ、ビデオ芸術のナタリー・カブロル、ドラマツルギー(劇作)のブノアット・ビュロー、リハーサルピアニストのマリーヌ・トロー==サル。

演出のポーリーヌ・ビュローは、イタリア語台本のフランス語への翻訳・翻案も担当した。20世紀はじめまでは、各国語のオペラはフランス語に訳されて上演されるのが普通で(イタリア語作品はイタリア劇場Théâtre italien でのみ原語上演が可能だった)、その時代の仏訳台本はあるが、今回は新訳上演となっている。メロディラインによくマッチした自然なフランス語で、この分野での彼女の貢献も大いに賞賛されるべきであろう。

ちなみに、歌詞の字幕はフランス語と英語。フランスのオペラ劇場はこれまで字幕はフランス語のみだったが、他のヨーロッパ諸国に習ってか、少しずつではあるが英語との2ヶ国語表記にするところが出てきている。

© Pierre Grosbois

舞台装置は2階建ての「小屋」が屋根裏部屋になったり、カフェ・モミュスになったりする。ビデオが非常に優れており、小屋の壁にイメージを投影することで大きく場所を変えることに成功している。そのビデオにはネオンが登場したり、衣装もかなり現代っぽく、20世紀を想定しているような感もあるが、19世紀の雰囲気も全く捨ててはいない。舞台はミミが母親宛に絵葉書を描くところから始まるが、その字体は完全に現代の人が書くものだ。第3幕の装置の後方には建設中のエッフェル塔が後方に見え、それについては下のビデオで演出家が「話が繰り広げられるのはエッフェル塔が建てた1889年、パリ万博の年です」と言っている。しかし見る側としては、これが話の時代設定とも取れるし、主人公と遠い過去の(ひいおばあさんあたりの)話をオーバオーラップさせているとも取れる。


(ビデオはワイド版なのでカーソルを移動させて見たいアングルを決めてください)

大健闘の若い歌手陣

歌手たちは若手で揃えた。皆20代後半から30代である。ミミ役のサンドリーヌ・ブエンディア Sandrine Buendia は丹念で飾らない歌いぶりとまっすぐな音色を生かした発声に好感が持てる。ロドルフを歌うのは、今年2月の「Voix Nouvelles ヴォア・ヌーヴェル」コンクールで入賞したばかりの気鋭の若手ケヴィン・アミエル Kévin Amiel である。パリ・オペラ座のアトリエ・リリック(現パリ・オペラ座アカデミー。若手養成機関で、毎年選ばれた数人の歌手がアカデミーシステムで学ぶ)出身。明るい声が印象的。以下、非常に均衡の取れたキャストで、皆フランス語の発音が非常に明快。フランス語はオペラなどで歌う言語としては大変に難しく、発声もイタリア語やドイツ語とはまた異なった適応が必要で、長年この点がなおざりにされていた。だがここ1015年ほどの間に、フランス語のオペラやオペレッタのレパートリーを専門にする団体が出てきて大きな効果を出していることと並行し、全般的にフランス語での歌唱を見直す動きが生まれ、このオペラ・コミック劇場でもアカデミーを創設してこれに力を入れていた(アカデミーは現在では消滅・吸収されてtroupeつまり劇場付き歌手という形で存在している)。その結果、若い世代を中心に、抑揚・発音が明瞭な歌手が多く生まれている。この Bohème, notre jeunesse の歌手たちは、それをよく反映した歌いぶりが見事だった。

© Pierre Grosbois

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Adaptation musicale : Marc-Olivier Dupin​
Direction musicale : Alexandra Cravero
Adaptation, traduction et mise en scène : Pauline Bureau
Décors : Emmanuelle Roy
Costumes : Alice Touvet
Lumières : Bruno Brinas
Vidéo : Nathalie Cabrol
Dramaturgie : Benoîte Bureau
Collaboratrice artistique à la mise en scène : Cécile Zanibelli
Chef de chant : Marine Thoreau La Salle
Mimi : Sandrine Buendia
Rodolphe : Kevin Amiel
Musette : Marie-Eve Munger
Marcel : Jean-Christophe Lanièce
Colline : Nicolas Legoux
Schaunard : Ronan Debois
Alcindor : Benjamin Alunni
Garçon de café : Anthony Roullier
Paris, Opéra Comique, 9, 11, 13, 15, 17 juillet 2018

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