Accueil レヴュー舞台コンサート マリー・ヴェルムラン(p) エルサ・グレテール(vn) デュオリサイタル

マリー・ヴェルムラン(p) エルサ・グレテール(vn) デュオリサイタル

par Victoria Okada

Marie Vermeulin & Elsa Grether le 23 janvier 2017 à la Salle Cortot © DR

(2017年1月にMixiで発表したものに修正・加筆しました。)

氷点下の気温が続くパリで、寒さをものともしないヴァイオリンとピアノのデュオコンサートを聞いた。プロ・ミュジシス Pro Musicis というコンサートアソシエーションが主催する、国際コンクール入賞者を招いた一連の演奏会の一つで、ピアノのマリー・ヴェルムラン Marie Vermeulin と、ヴァイオリンのエルサ・グレテール Elsa Grether によるデュオ・リサイタルである。

本題に入る前にプロ・ミュジシス Pro Musicis について触れておこう。フランスには、ボランティアの方々の貴重な時間と力を借りて運営されているコンサートアソシエーションがたくさんあり、それぞれ独自の活動を行っている。大部分が若手支援を活動の中心に据えており、個人宅で行われるプライベートコンサートから、ホールを借りて未来の大演奏家を送り出すものまでさまざまだが、プロ・ミュジシスは後者に入る。

プロ・ミュジシスは、国際コンクールで受賞歴がある若手演奏家をサル・コルトーのコンサートで紹介する一方、1965年から年に一度、プロ・ミュジシス賞  Prix Pro Musicis を設けている。受賞者には、名ピアノ教師として名を馳せるドミニク・メルレ Dominique Merlet、ヴァイオリンの巨匠パトリス・フォンタナローザ Patrice Fontanarosa 、最近オペラを退き多様な活動を行っているソプラノ、ナタリー・デッセイ Natalie Dessay(日本語ではデッセイで通っているが、フランス語の発音では「ドゥセ」がもっとも近い)などが名を連ね、世界で活躍する逸材を排出している。その傍ら、障がいのある子供達、介護を要する人々を中心に、盲目の方々、受刑者なども対象に、Concerts Partage(シェアコンサート)も開催している。これはサル・コルトーのコンサートの出演者が、参加者とふれあい(シェア)ながら行うコンサート。ちなみに昨シーズン(2015年10月〜16年5月)には、サル・コルトーでのコンサート7回、シェアコンサート14回が行われ、プロ・ミュジシス賞には11カ国から32人・グループが応募。三重奏団のトリオ・ザディグ Trio Zadig とピアニストのガスパール・ドエーヌ Gaspard Dehaeneが賞に輝いた。

会場は、エコール・ノルマル音楽院の構内にあるサル・コルトー Salle Cortot。このホールは、シャンゼリゼ劇場の設計者オーギュスト・ペレの設計によるアール・デコ調のホール(客席数約500)で、1928〜29年の建築。最近は、昨年、チェリストのジェローム・ペルノーを中心に若手を集めて活動を開始したパリ室内楽センターや、ピアニストのジャン=フィリップ・コラールが芸術監督を務める、フランス音楽国際ピアノアカデミーなど(2016年創設)がここを拠点とし、とみに活況をおびている。これらの団体については、追ってインタビューなどを掲載する予定。

さて、マリー・ヴェルムラン Marie Vermeulinエルサ・グレテール Elsa Grether のコンサートのプログラムは、グリーグの3番、ドビュッシーのソナタの後、15分程度の短い休憩を挟んで、ブロッホの小品とブラームス3番と、かなりハード。この日は北欧からの寒波の影響で外は非常に寒かったが、ホール内は暖房がきいており、その上、響の面ではどちらかというと乾いた空間なので、楽器が慣れるまでに少々時間がかかったようだ。グリーグのソナタの第一楽章はAllegro molto ed appassionatoの表示どおり情熱的な演奏だったが、ヴァイオリンの音にまだかさつきがあり、ピアノとの音程も微妙にずれ気味。これは気候によるところが大きいと思われる(この下のブラームスの評参照)。第2楽章は甘美で、時に官能的な様相も見せる演奏で、丁寧な弓使いで息の大きなフレーズを作っているのが印象に残った。ピアノは、クリスタルのような、または澄んだ夜空に輝く星のようなピュアな音が美しい。ヴァイオリンと同様、一つ一つの音の扱いがとても丁寧かつ自然で、故意に何かをしようという様子が全くないのがいい。終楽章は最初とはまた性格ががらっと異なったアレグロで、その表情の豊かさが見事。

続くドビュッシーは、ピアノもヴァイオリンも、グリーグの2楽章で見せた丁寧なフレーズ使いがさらに繊細になり、フランス音楽特有の色彩の変化がよく表れている。細かいニュアンスに富んでいるにもかかわらず、そのニュアンスに埋まることが全くなく、音が常に満ちている。非常に説得力がある演奏だ。

休憩後のブロッホは、あまり演奏される機会がない曲。心地よい不協和音による幾つかの音形がピアノの左手でオスティナート風に繰り返される中で、右手とヴァイオリンが、時に妖艶な、時に神秘的な、広い音程を使った断片的なメロディ…と言うより、次々に現れる異なったモチーフを奏でる。19世紀末の異国「趣味」とはまた違った「異国」がそこにある。

最後はブラームスの3番。ヴァイオリンはすでに場所に馴染んで、最初の音から、グリーグとは比較にならないくらい艶やかによく鳴っている。エルサ・グレテールは、一つ一つの音を愛でるように、よく聞きながら大切に弾く。一音もこぼすまいとする真摯な取り組み方だが、かといって大胆さに欠けるというわけでもない。ただ、ブラームスの場合、1楽章と4楽章で、もう少しその場に任せた方がよりよい流れができるのではないかと思わせる箇所が、ところどころにあった。マリー・ヴェルムランはそんな彼女の演奏をよく知ってか、大きな音楽づくりで曲にさらに起伏を持たせることに成功している。終楽章のクライマックスはとくにそれがうまく功を奏して、ぐいぐいと引き込まれていく。曲が終わった瞬間に唸るような声を発した聴衆が何人もいたことが、それをよく物語っていた。

最後に、二人の演奏家を簡単に紹介しておこう。

Elsa Grether © Jean-Baptiste Millot

エルサ・グレテールは、15歳の誕生日に、パリ地方音楽院で審査員全員一致でプルミエ・プリを取り、その後ザルツブルグのモーツァルテウム音楽院、アメリカのインディアナ大学とボストン・ニューイングランド音楽院で研鑽を積んだ逸材。同時にパリでレジス・パスキエの教えも受けている。2009年にプロ・ミュジシス賞を受賞、2012年にはカーネギーホールにデビュー。シフラ財団など、若手音楽家を支援する多くの財団から選ばれている期待の演奏家。2017年6月に3枚目のCD「カレイドスコープ」をリリース予定。

Marie Vermeulin © Jean-Baptiste Millot

マリー・ヴェルムランは2004年にローマの国際音楽トーナメント1位、2006年にバルセロナのマリア・カナルス国際ピアノコンクール2位(若手ファイナリスト賞も同時に受賞)、2007年にオリヴィエ・メシアン国際コンクール2位というサラブレッド。2009年プロ・ミュジシス賞。2014年には権威あるフランス学士院芸術アカデミーのメンバーが選ぶ「デル・デュカ財団演奏賞」を受賞している。メシアンの演奏には定評があり、2008年の生誕100年を記念してグラモフォン社がリリースした全曲録音に参加。2014年のメシアン・フェスティヴァルでは2時間以上の大作《幼子イエスに注ぐ20の眼差し》の全曲演奏を行った。古典派から現代ものまであらゆるプログラムをこなす。

2月24, 25日に、パリ・カルチエラタンにあるコレージュ・デ・ベルナルダン Collège des Bernardins で、彼女たち他、最近のプロ・ミュジシス賞受賞者10人によるガラ・コンサートがある。その模様もお伝えする予定。

チケットの予約・購入はここ(2月24日)ここ(2月25日)から。当日券あり。(いずれも20時30分開演、各30ユーロ)

 

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2017年1月23日 パリ、サル・コルトー

エドヴァルド・グリーグ (1843-1907) ヴァイオリンソナタ第3番ハ短調 op. 45 (1887)
クロード・ドビュッシー (1862-1918) ヴァイオリンソナタ (1916-17)
エルネスト・ブロッホ (1880-1959) 異国風の夜 (1924)
ヨハネス・ブラームス (1833-1897) ヴァイオリンソナタ第3番ニ短調 op. 108 (1886-88)
アントニン・ドヴォルザーク (1841-1904) ロマンチックな小品 op.75-1 (アンコール)

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1 commentaire

Marie Vermeulin & Elsa Grether à la Salle Cortot | Vivace Cantabile 2017-01-27 - 15:51

[…] Nous avons écouter les deux talentueuses musiciennes, la pianiste Marie Vermeulin et la violoniste Elsa Grether à la Salle Cortot, le 23 janvier 2017, dans le cadre des Concerts Pro Musicis. Le compte-rendu se trouve en japonais ici. […]

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